地域で話題になっている人や団体、企業などを紹介するシリーズ。
第34弾から、3号連続にわたり「秋月藩黒田三職の会」の皆さんを紹介。11月に開催される「三名君フォーラム」に向けて、秋月藩の伝統産業を紹介します。
■Interview
廣久葛(ひろきゅうくず)本舗10代目高木(たかき)久助(きゅうすけ)さん
創業1819年(文政2)。江戸時代から200年以上続く本葛専門店「廣久葛本舗」の10代目。初代から「久助」の名前を継承し、通称ではなく戸籍から変更するため、家系図をたどると祖父、父と「久助」の名前が続く。
秋月藩に伝わる伝統産業である葛、川茸、和紙の職人による「秋月藩黒田三職の会」としても活動。秋月の伝統を次世代へ伝える取り組みも行う。
■一子相伝でつなぐ二百年の伝統
◇江戸から現代へつなぐ伝統
廣久葛本舗の始まりは江戸時代。秋月藩8代藩主で秋月三名君の一人でもある黒田長舒(ながのぶ)公が、秋月の特産品を産業化し藩の財政を潤すために、本葛製造を奨励したことがきっかけです。以来200年以上、葛の伝統製法を継承してきました。私で10代目になりますが、父である9代目が若くして亡くなり、急遽私が後を継ぐことになりました。
髙木家の葛づくりは一子相伝、作り方を記した書物などはありません。継いだ当初は、最先端の製法で父を越えたいとの思いでしたが、「9代目の葛の方がおいしい」との声ばかり。試行錯誤の期間が15年ほど続き、非効率ではありますが、時間と手間暇をかける伝統製法の重要性に気付きました。その製法を長年洗練させた結果、私の母から「お父さんを越える葛ができたね」と言われ大きな自信となりました。
葛づくりは経験と勘が頼り。マニュアル化できないため、長い年月をかけて、職人としての経験を積み、勘を養っていきます。
◇鹿屋(かのや)・秋月が生む上質の葛
葛の原料は葛の根から取れるデンプンです。現在、秋月では葛が採れないため、毎年11月~4月の間は、鹿児島県鹿屋市で葛の原料収穫・加工に専念します。葛は、山に自生する30年から50年かけて成長したものを収穫。作業は大変な重労働で、私が敬意を込めて呼んでいる「掘り子さん」が、人力で掘り出してくれます。収穫し、加工したものを秋月へ持ち帰り、葛づくりを行います。きれいな空気、豊かな水、寒暖差のある気候などが揃う秋月は、葛づくりに適した環境といえます。
◇伝統は変えず新たな取り組みも
葛は昔から食されてきた伝統的な食材ですが、戦後の洋食化に伴い、一時衰退した時期もありました。それでも近年は、健康志向の高まりや葛の薬効もあり、健康食・介護食などとして注目されています。私も、葛を多くの人に知ってもらうために、ワークショップなどで葛の普及活動に取り組む「葛男プロジェクト」を行っています。今後も、葛の製法などの伝統は変えず、絶やさないためにできる新たな取り組みを、続けていきたいと思います。
朝倉の歴史、伝統、文化には多くの宝物があります。それらを次の世代へ伝え、守っていく。それが私たちの使命だと考えています。
■廣久葛本舗(秋月532【電話】25-0215)
自然の中で育った葛の根は、山の環境や成長の年月によって表情はさまざま。まれに人の背丈を超える大物が収穫されることも(本紙写真は154kg)。
鹿屋の工場で加工し、秋月で仕上げるまで数多くの工程を経るため、原料から7%ほどしか本葛(葛粉)は得られない。貴重な本葛を使った葛もちも好評。
ワークショップでは、秋月で葛の製造工程見学会、鹿屋で葛掘体験などを開催。
※HP・Instagramの詳細は本紙またはPDF版をご覧ください。
■秋月の伝統を守るために―。
秋月地区の活動にも積極的に参加する高木さん。令和6年には「秋月藩成立400年記念」イベントとして、地下水を飲み比べする「秋月水自慢」や武者行列がまちを練り歩く「秋月鎧揃え」などに参加し、秋月地区の伝統を守る活動にも精力的に取り組む。
※「高木」の「高」は環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
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