■夜風退散 ~蚕の天敵~
伊達地方一帯はかつて蚕糸業が盛んな全国屈指の「蚕都(さんと)」として有名で、多くの人々が養蚕業に従事していました。特に伊達地方で製造された蚕種(さんしゅ)(蚕の卵)は、質のいい繭が出来ると全国的にも評判でした。しかし、どれだけ蚕が丈夫に成長しても、すべてを台無しにしてしまう生き物がいました。それは夜な夜な現れては蚕を食べてしまう鼠(ねずみ)です。蚕を食べられてしまっては大切な収入を失うことになり、鼠は頭を悩ませる存在でした。鼠の防除方法が確立できていなかった時代、猫を飼う対策のほかに、鼠の天敵となる生き物を描いた絵馬を寺や神社に奉納したり、鼠退散の御札を蚕室に飾ったりするなど、被害にあわないための願掛けを行っていました。
写真は伊達市梁川町の養蚕農家が所有していた御札で、「夜風退散」の文字が見えます。鼠を文字や言葉に表すことを忌み嫌い、「夜風」と表現しました。
その他にも養蚕農家は蚕室清浄や養蚕成就を願う御札を飾りました。特に養蚕成就祈願の御札はかかせず、毎年養蚕の仕事を始める前に、神棚または蚕室に飾り、毎朝ご飯を供えました。蚕を育てる部屋である蚕室は、常に清潔で清浄な状態を保つように心掛けていた大切な場所でした。
重要有形民俗文化財指定「伊達の蚕種製造および養蚕・製糸関連用具」には、養蚕無事を願う御札も含まれ、内3点を現在開催中の企画展に展示しています。
◇令和6年度第1回企画展
伊達のお蚕用具展9月23日(月・祝)まで
伊達市保原歴史文化資料館
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