◆常陸大宮市のウスバアゲハの分布拡大について
・自然部会 専門調査員
茨城県生物多様性センター 佐々木 泰弘
ウスバアゲハ(ウスバシロチョウ)は半透明の白い翅(はね)をもったアゲハチョウです。成虫は5月中旬頃現れる春のチョウです。
ウスバアゲハ Parnassius citrinarius
チョウ目 Lepidoptera
アゲハチョウ科 Papilionidae
◇茨城県のウスバアゲハ
この蝶は長年、茨城の幻の蝶として有名でした。茨城県では1948~1951年に水海道市小貝川河川敷で生息が確認され、その後1976~1987年にそこから8km下流の伊奈村小貝川河川敷で確認されました。当時、この蝶は高原に多く見られる蝶の仲間であるため、茨城の平地に、なぜ、いたのか謎でした。そして1987年を最後に茨城から姿を消してしまったのでした。
その後、30年近くたった2014年に八溝山で再々発見されました。これは周囲の栃木県や福島県でウスバシロチョウが分布拡大をしていることが分かっていたので、予想されたことでした。その後大子町に定着し、2014年には北茨城市で、2016年には常総市、2019年には常陸太田市でも確認されました。
◇常陸大宮市のウスバアゲハ
『常陸大宮市史別編2自然』にも記したように、市史の調査の中で市内から初めて記録できたチョウ類の1種にウスバアゲハがあります。ウスバアゲハを常陸大宮市で初確認できたのは2019年5月で、それ以後は2019、2020年に小田野、2022年に尺丈山、千田で確認されました。2024年には鷲子の県境で大発生しているのが確認できました。
今後も小田野や千田で確認されたように栃木県側から飛び移ってくる個体があると思われます。そのような個体は移動しやすい道路沿いや気流に乗りやすい峠を越えてくる可能性が高く、また、栃木県でもウスバアゲハの分布拡大は継続しているようで県境付近ではどこから侵入してきても不思議ではありません。
定着が確認できた尺丈山や鷲子では定着発生地が南方や東方に向けて拡大していくと考えられます。これも連続した変化ばかりではなく、飛び石的な拡大になると思われるので、周囲を広い範囲で捜していく必要があります。
◇まとめ
チョウなど昆虫類、動物の分布については、それらの個体が大きな移動能力を持つことから生息地域の正確な判定が難しく、また、生物にとって、見つければ、とりあえずいたことの証明にはなりますが、見つからなかったからといって、いないことは証明できません。過去その生物がどのように分布を変化させてきたのかを調べることは困難で、本当にそこにいなかったのであろうか、いつでも疑問が残ってしまいます。幸いウスバアゲハは常陸大宮市に入り込んだ時期、場所がしっかりとつかめているため、今後の様子を追えば、分布の変化していく様子をたどることができると考えられます。そのためには、なるべく多くの調査報告が必要です。今回も多くの報告例を集めて県や常陸大宮市内の分布拡大を追うことができました。そして、それは他の生物の分布変化の解明にも繋がっていくのではないかと思います。
今後ともウスバアゲハの分布拡大は続くと考えられ、多くの人からの情報が必要です。5月の草原にふわふわ飛ぶウスバアゲハを見たら教えてください。
問い合わせ:文化スポーツ課 文化振興グループ
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