「かっぱ、なかった」
じぃじとのお出かけから帰ってきて、開口一番、大粒の汗を流しながら言ってくる。
今日は一日中晴れだったはずなのに、局地的に雨でも降ったかな。「折り畳み傘でも持って行けばよかったね」
手洗いをするように促しながら、頭をぽんぽんしてみる。
どうやら濡れた様子はないようだけれど、父を見ると、なぜか笑っている。
「きゅうり2こもつけたけど、つれなかったー」
そっちか。
そういえば、今日は渓谷に遊びに行くって言ってたっけ。
私も、昔、よくお話をしてもらってたな。
「こんどは、てんぐをみつけるんだー」
しっかり次の約束もとりつけて、天狗の好きそうなものを探し始める。
「天狗は何が好きだろうね」
現実と昔噺(むかしばなし)の世界、たまには大人も旅をしてみるのもいいかもしれない。
「父さん、あの本どこにしまったっけ」
「むかしむかし」
「むかしむかしの話だけど」
高萩の70年の「あゆみ」の中に、今日まで語り継がれ、残されてきた数多くの昔話や伝説があります。
親から子へ、子から孫へと、脈々と語られてきた民話。
昭和55年、市民が伝えてきた昔話・伝説を一冊にまとめた「高萩の昔話と伝説」が発行されました。
多くの市民に協力いただき、3年もの年月をかけて集められた民話の中から、410話が収録されています。
山奥の農家、炉端の自然の語らいの中、お年寄りの記憶に残っていた貴重な話が、ありのままの表現で記録されています。
そこに流れる先人の気持ちをくみとり、未来の高萩の心の糧とするとともに、郷土の生活文化の貴重な結晶として、後世に伝えていきたいと思います。
市制70周年の節目となる今年、民話の声をあらためて、現代によみがえらせてみませんか。
■ここが面白い‼民話の楽しみ方
01 覚え語りがつながる奇跡
文章と違い、人から人へと語り継がれてきた民話は、ともすれば埋没し、失われた文化遺産というべき貴重なもの。過去から未来へつながる、ロマンを感じます。
02 感じる高萩らしさ
高萩らしい方言、なまりの持つ味わいが、ありのまま伝え残されています。
方言交じりの語りは、親しみが増し、郷土愛を育むことにつながります。
03 かき立てる想像力
高萩に伝わる民話では、地域の呼び名や風習・物が当時のまま残っているものがあります。
天狗を探しに、土岳に登ってみるのも楽しいかもしれません。
04 変化する楽しみ創る楽しみ
語り部により、さまざまに脚色されて伝わる民話。
次は、あなたが語り伝えてみませんか。
■『高萩の伝説カレンダー』より
▽高萩の伝説9 勝之丞山の神
猟師の勝之丞という人がいた。まだその土地に山の神が祭られていない頃、石の上に逆さ松を植えた。根のほうを上にして、葉のほうを下にして。それじゃ根付きようがないでしょ。それなのに、お弁当を入れた丸鉢を山から転ばして、「こいつが鉄砲の弾に当たれば、松も根付くから、必ずお祭りします」と念願して丸鉢を山の上から転がして、鉄砲で撃ったら、見事命中したそうな。大した鉄砲の名人だったんですね。おかげで逆さ松はそこに根付いて、そこに神様を祭ったから、勝之丞 山の神様ということになった。(地域 大能/写真 大能の田園)
▽高萩の伝説12 土岳の天狗と木樵(きこり)の力くらベ
土岳山に天狗が住んでいた時のこと。ある日、木樵が木を切っているときに天狗さんが出てきて、「相撲取ってくれ」というんですね。「その代わりになんでも願いをかなえてあげっから」といったんですと。そいで、相撲をとってあげたら、天狗さんがとても喜んだそうです。翌日行ってみたら、もう3,4日分の木が切ってあったんですって。ところがそれを誰にも言うなといわれていたのに、つい村人に言ってしまった。あとで行ってみたら、ひとつも木は残っていなかった。で、その木樵は、元の平ろくの百姓になっちゃったそうです。(地域 中戸川/写真 高萩八幡宮から土岳方面を望む)
「高萩の昔話と伝説」
市歴史民俗資料館で販売中
【電話】23-7229
■民話をつなぐ人に聞きました
▽民話を語るきっかけを教えてください。
「高萩の昔話と伝説」が教材の市民講座をきっかけに、地域の伝統や文化を多くの人に伝えたいと、平成29年に会を発足し、民話を伝え始めました。
▽どのように民話を伝えていますか。
お話をただ読むだけではなく、方言やなまりを交え、覚えて語る「昔語り」で伝えています。
服装や場所、身振り手振りもお話にあわせて、心に沁みる民話の世界を伝えます。
▽民話の魅力を教えてください。
民話は、
人と人とをつないでくれます。
心と心とをつないでくれます。
民話には、ロマンがあります。民話が、世代を超えてつながっていく、これからも、そのための橋渡しをしていきます。
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