■希少動植物調査員からの報告(45)
フジキという木をご存じですか?20mほどの高木になるマメ科の樹木です。葉が藤の木に似ているため、「藤木」と呼ばれるようになったようです。ふだんは他の樹木に紛れて、ほとんどその存在が分かりません。しかし、白い花が咲くとその存在がよく目立ちます。
この樹木はもともと暖かい地方の植物で、長野県では南部に多く分布しています。そうした南方系の植物が、村内では白鳥から平滝付近にかけて、千曲川沿いの川岸や急傾斜地に数多く点在しています。
今年は、そのフジキの花の当たり年だったようで、6月中旬に「こんなにたくさんあったのか!」と、驚くほど一斉に開花しました。
特に、箕作集落の千曲川対岸(平滝清水河原)にあるスノーシェッド上の急斜面には、フジキが多数群生しており、突然その周辺がぼわっと明るくなって見えた様子には、びっくりしました。きっと気付いた方も大勢いらっしゃったことと思います。
植物に詳しい苗場山麓ジオパーク推進室の中澤英正氏によると、お隣の新潟県では、自然状態でのフジキは妙高市(旧新井市)の一部と津南町の中津川沿いにのみ分布し、非常に珍しい樹木だそうです。
またフジキは、太平洋側では宮城県あたりまで分布が見られますが、日本海側では、栄村、それも平滝周辺のものが「北限のフジキ」とのことでした。「北限」とは、それ以上北に行くと、もう見られない、分布していないということです。これにはびっくりです!
◆中津川沿いのフジキは、毎年咲かない?!
この地域のフジキに関しては、さらに面白いお話もお聞きしました。
中津川沿いにあるフジキは、津南町の見玉から前倉、さらに栄村に入り、屋敷でも見られるそうです。
ふしぎなことに、村内の千曲川流域のフジキが、多かれ少なかれ毎年花が咲くのに対して、中津川沿いのフジキは、ポツポツと咲くことはあっても、数年に一度しか咲かないというのです。
今年は、中津川沿いのフジキも千曲川沿いに呼応するように一斉開花し、見事だったそうです。中澤氏も、調査を始めてから40年ほどの間に、今年のような一斉開花はたった3回ほどだけだそうです。
なぜ千曲川沿いのフジキと中津川沿いのそれでは、開花の周期に違いがあるのでしょうか?植物たちと話ができたなら、ぜひその訳を尋ねてみたいものです。
◆村内は南限と北限の植物の接点!
村内には、南限の植物もあります。その一つがユキツバキです。太平洋側に主に分布するヤブツバキに対して、ユキツバキは日本海側の多雪地帯にだけ分布するツバキです。
このユキツバキについては、栄村出身の植物学者である故石沢進先生らが詳しい調査をしています。それによると、この地域では、津南町秋山地域の中ノ平付近から栄村の極野付近を通って、野沢温泉村の中央部、飯山市の北部を通るラインがユキツバキの南限になっています(ユキツバキ線)。ですから、村内でも秋山地域では、ユキツバキが分布していないのです。
このユキツバキ線に沿って、北側と南側では、見られる植物に数多くの違いがあります。まさに、栄村は北限・南限(日本海側・太平洋側)の植物が混じり合う大変貴重な場所なのです!こうしたことも、「栄村の自然が多様で豊か」と言われる一因です。
そうした場所に私たちが住んでいることを、もっと自慢してよいかもしれませんね。
[参考]石沢進・白崎仁『苗場山・鳥甲山(長野:秋山郷)の維管束植物』1985 栄村教育委員会
(栄村希少動植物調査員・涌井泰二)
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