昭和23年、静岡県三ヶ日町(現/浜松市)でミカン農家の息子として生まれる。静岡大学農学部、京都大学大学院を修了し信州大学理学部教授に。生態学を専門に昆虫の環境適応や生物の保全研究に取り組む。元長野県レッドデータブック改定委員会委員長。「庄内ほたると水辺の会」「松本ホタル学(まなぶ)会」代表。
令和元年に高森町でホタルについての講演会をさせていただいたことをきっかけに山吹天伯峡ほたる管理委員会の皆さんと出会い、保全活動のアドバイスをさせていただくことになりました。現在まで毎年数回は高森町を訪れ、北小4年生の皆さんと「水辺の学習」や「ほたる観察会」などに取り組むほか、管理委員の皆さんと天伯峡の水路などホタルを取り巻く環境の確認をしています。
私は30余年前にホタルの研究を始め、20年ほど前から松本市庄内地区でホタルの保全活動に取り組んできました。そこは開発前、ホタルが生息していましたが、都市区画整理事業で生息地が消失。ホタルを残したいと望む市民が私のところへ相談に訪れ、それを基に松本市がホタル水路の建設を決定したのです。ここでの私の提案は「環境ごと生き物移転」でした。新設の水路が生き物の棲み良い環境となるよう、ホタル幼虫を含む川の小動物、周囲の泥、植物などほぼ丸ごとを移し、かつての田舎の原風景に近い環境を目指したのです。「せっかく区画整理したのに、また元に戻すなんて」と反対の声もありましたが、生き物が棲み良い環境にするという考えを会有志と共に貫いた結果、20年以上経つ今もホタルは棲み続け、毎年ホタル観察会ができています。
ホタルはよく「水がきれいな場所を好む」と言われますが、人間とホタルの感覚には隔たりがあります。例えば水路周辺の草をすべて刈り取り、川の中が透けて見えるような水辺は人にはきれいに見えるかもしれませんが、ホタルにとって棲み良い環境ではありません。なぜならホタルの幼虫の餌となるカワニナ(巻貝)は植物を食べますし、ホタル自身も木陰や草むらがあり、たくさんの生き物が暮らす所が好きだからです。昔のように生態系が保たれた環境にすればホタルもそこを好んで棲み続けることができます。私たちが目指すのは、ホタル『が』棲める環境を作ることではなく、ホタル『も』棲める良い自然に少しでも直すことです。
やまぶき天伯峡は管理委員会の皆さんの努力もあり、生き物が棲みやすい環境になっています。ホタル『も』棲める環境になっているかを児童の皆さんと確認しているのが秋の「水辺の学習」です。これまでにゲンゴロウ、タイコウチ、ホタルの幼虫をはじめ、きれいな川にしか生息しないプラナリアが見つかったこともあり驚きました。この活動を通じて多様な生き物が暮らす水辺の素晴らしさを知り、この場所が「町の大切な宝」であることを実感してもらえればと願っています。
一方、活動を続ける中で気がかりなのは虫嫌いの子どもの増加です。昔の子どもは川や田んぼで遊び、生き物や虫とも自然と親しんでいました。しかし今では「虫は嫌い」「怖い」と避けてしまう子が増え、自然や生き物への関心が薄れています。
地球上ではヒト、動物、魚、植物、虫などすべての生き物が関わりを持って暮らしています。私たちが口にしている米や野菜、肉、魚などの食物、着るものや薬まで、元はすべて生き物からできており、生き物がいなくなれば人間は生きられないのです。ですから、生き物を大切にすることは将来の人間の生活を守ることになります。ヒトと自然が共生する豊かな環境を守りつなぐためにも、生き物好きや生き物の大切さのわかる子どもたちが増えるといいですね。
・高森北小学校4年生 鈴木(すずき)優杏(ゆうあ)さん
藤山先生からいろいろな話を聞いて、ホタルについてさらに詳しく知ることができました。特に「水の中で過ごすホタルは3種類しかいない」ということを知って驚いたし、心に残っています。
先生の話を聞いて、ホタルが棲みやすい場所にするためには、みんなが暮らしやすくすることが大切なんだなと思いました。これからも川を汚さないようにして、みんなが暮らしやすい場所を作っていきたいです。
・高森北小学校4年生 龍口(たつのくち)釉菜(ゆな)さん
これまで、学校でもホタルの勉強はしてきたけれど、藤山先生の授業を受けて、初めてわかったことも多かったです。ホタルは日本だけのものだと思っていたので、日本以外にもいることや、世界には違う種類龍口釉菜たつのくちゆなさんのホタルがいるということがわかってびっくりしました。
ホタルもヒトも暮らしやすい、良い場所を守るために、川にゴミを捨てないことはもちろん、ホタルが気持ちよく暮らせるいろいろな工夫をしていきたいなと思いました。
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