■願う(ねがう)不妊当事者への関心
▽14人に1人 生殖補助医療で生まれた子ども
生殖補助医療による出生児数:日本産科婦人科学会「ARTデータブック(2020年)」
全出生児数:厚生労働省「令和2年(2020年)人口動態統計(確定値)」
▽卵子を体外に取り出し、体外で精子と受精させる方法を総じて、生殖補助医療技術(ART(アート))と呼ぶ。2020年には、ARTにより6万381人が誕生。これは、同年の全出生児84万835人の7.2%に当たり、およそ14人に1人の割合となる。日本初の体外受精児が誕生した1983年以降、ARTでの出生数は、累計で84万人を超える。
昨年3月までは、不妊原因の検査と原因疾患への治療のみに保険が適用されていたが、原因究明は簡単ではない。そこで島田市では、先進的に一般・特定不妊治療への助成を行ってきた。
今回、不妊治療の保険適用範囲が拡大したことは、生殖補助医療技術のさらなる一般化に寄与するだろう。その反面、治療内容や当事者の苦労・苦痛に対する社会の理解は、追い付いていないのが現状だ。生きづらさは、「産む」選択を躊躇(ちゅうちょ)させかねない。
▽令和4年4月から新たに保険適用となった不妊治療
厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の概要」
▽体外受精・顕微授精の要件
▽30代/妻 村上絵莉奈(むらかみえりな)さん(治療歴6年)
「不妊治療中は、妊婦と同じくらい体調が悪化します」
・婦人科を受診するまでの背景は?
10代から月経不順だったと思います。20歳の時に治療を始めたものの、副作用が強くて中止。結婚後の妊活を前に、受診しました。
・不妊治療の経緯や内容は?
多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群(卵胞の成長が止まる病気)による排卵障害と診断され、ホルモン治療を4年間続けました。効果が薄かったので体外受精にステップアップ。胚盤胞(はいばんほう)移植法で妊娠反応が出るも、化学(早期)流産を繰り返しました。
・治療時に感じた苦労やストレスは?
ホルモン治療は、急な受診が繰り返し必要なので、仕事との両立が大変。注射後は気分が悪くなりますが、見えない(言えない)不妊は理解されず、弱音を吐きづらくて。妊婦さんの悪阻(つわり)なら、周囲にも気遣いが根付いているんですけどね。それから、治療が長引くと、経済的にも不安が募りました。
・不妊が心配な人にアドバイスするなら?
私自身、不妊症など疑わず、欲しいタイミングで授かれると思っていました。妊娠を望む人は、早めの受診が絶対。婦人科に抵抗感があるのなら、子宮がん検診などの機会に月経不順などの症状を、医師に相談してみてはどうでしょうか。
▽40代/夫 村上健二(むらかみけんじ)さん(不妊原因なし)
「妊活中は、互いの気持ちを確め合うことが大切です」
・不妊検査を受ける前の心境は?
男性不妊のことは、何となく知っていました。もしも、自分に原因があるという結果になったら、どう妻に切り出そうかと考えもしましたね。
・夫婦の診断後に心掛けたことは?
治療による体調の変化は、妻を不安にしてしまうので、通院にはできるだけ同行しました。原因がどちら側でも、治療・妊娠・出産と、身体的な負担がかかるのは女性。だから、私も一緒に妊活していると実感できるくらい、支えられる場面を探しました。
・情報収集など治療中に困ったことは?
専門書やネット検索は便利です。でも情報量が膨大で、信用性の吟味にも神経をすり減らします。すれ違い、互いの考えが分からなくなることも。だからその都度、二人の気持ちを確かめ合うことが大切。夫婦が同じ方向を向いて治療に臨めるよう、コミュニケーションを大切にしたいですね。
・男性は不妊にどう向き合うべき?
治療を分かち合い足並みを揃えないと、妊娠が遠ざかってしまうように感じます。男性は検査を敬遠しがちですが、調べなければ何も分かりません。そういう意味でも、もっと不妊と治療をオープンに語り合える環境になればいいですね。
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