県内には、小児がんや心臓病など小児慢性特定疾病を抱える18歳未満の子どもたちが、約900人います。
小児慢性特定疾病は、治療のため長期入院を余儀なくされるケースも少なくありません。
彼らは家族や通っていた学校から離れ、病気と向き合っています。
子どもの入院は、家族にも様々な影響を与えます。
看護に追われ社会から孤立していく親たちもいます。
今回、紹介する「NPO法人 未来ISSEY(イッセイ)」は県内の病院と連携し、病気を抱える子どもとその家族を支援しています。誰もが未来に希望を持って暮らせる社会をつくるため、私たちにできることはなにか一緒に考えてみませんか。
◆特定非営利法人 未来ISSEY 代表理事 吉田ゆかりさん
▽活動のきっかけと主な活動
「病気の子どもやその家族が、未来に希望が持てるような支援をしていきたい」そう話すのは、同団体代表の吉田さん。
吉田さん自身、次男が小児がんを患い県内だけでなく県外の病院でも闘病生活を経験しています。そして、その時感じたのがQOL(生活の質)の違い。県外の病院では、学生ボランティアがいて、闘病中の子どもやきょうだい児※と遊んでくれたり、勉強を見てくれたりと、病気を抱える子どもやその家族をサポートしてくれました。
その人たちのおかげで、子どもに笑顔が増え、吉田さん自身も同じ境遇の母親たちと情報や気持ちを共有することもできたそうです。
「こんな支援が香川でもあれば」と、同じような経験をした仲間で「未来ISSEY」を2018年に立ち上げました。
現在、長期入院や療養している子どもたちの学習・学びの体験の場を作っていく活動をはじめ、交流支援ロボット(通称つながロボット)の無償貸し出しや心のサポート、進学・就職等自立支援、当事者の現状を知ってもらうための映像や絵本の作成、広報・講演など多岐にわたる活動を行っています。
※病気を抱える兄弟姉妹を持つ子
▽当事者同士で交流できる場「みらいキューブ」を新設
今年5月には、資金の一部をクラウドファンディングで募り、病気の子どもやその家族の拠り所として「みらいキューブ」を市内にオープンしました。
「わが子の突然の変化に心がついていけず、悩んでいる両親や、そんな両親の様子を見て我慢して生活しているきょうだい児も、ここに来て前向きな気持ちになってほしい。一人で悩まず、身近に頼れる存在がいることを知ってほしい」と吉田さん。
ここでは、誰でも立ち寄れる「カフェなちゅ」があり、心身や仕事の悩みを相談したり、当事者同士で交流したりすることができます。
また、長期入院で学習が遅れた子ども(主に15歳〜18歳)や、看病で長い間仕事を休んでいた母親が、新しいスキルを身に付けて社会で活躍できるように「マイスタースクール」を開講し、社会的自立もサポートしています。10月には、スクール卒業生のスキルと企業とをマッチングし、仕事を受注する「スキルマルシェ」も始まりました。
利用料金について詳しくはこちら(本紙3ページの二次元コードをご参照ください。)
みらいキューブ 葭町17
【電話】35-8115
(月~木曜:午前10時~午後4時半)
◆未来のための「今」を支えるグッドブラザー事業
小児慢性特定疾病は、完治までに長い時間がかかります。その間、子どもの心の成長に必要な「年齢が近い人とのコミュニケーション」や「学習意欲と学年相応の学習内容」が欠けることは、復学の壁となる場合もあります。
そこで、未来ISSEYでは大人サポーターと学生ボランティアで構成する「グッドブラザー事業」を展開し、病床でも楽しめるゲームや手作りの問題集などで、子どもたちの心と学習のケアをしています。
吉田さんは、「病気を抱え入院しながらも、いかに社会生活をより良く送っていけるのか、子どもたちにとっては『今』がとても大切。自分の未来を信じて希望を持てるからこそ、しんどい治療も頑張ることができ未来のための「今」を支えるグッドブラザー事業る。子どもたちの『今』を支えていくためにも、こういった活動が大事だと思っています」と話します。
活動の対象としているのは、慢性疾患などで長期入院している子に限らず、自宅療養している子やきょうだい児など様々です。きょうだい児もまた家族の大きな変化に対し、様々な感情や葛藤を抱き、不安定な状態になることがあります。自分に寄り添い支えてくれる存在を知れば、安心して日常生活を送ることができるようになります。
現在、県内の高校生や大学生約80人が研修を受け、グッドブラザーとして子どもたちの心に寄り添いながら活躍しています。
▽グッドブラザー 青山 治樹さん
これまで幅広い世代の子どもたちに、オンラインでの遊びや学習支援などを行ってきました。入院中、いろんな制限や体調にも左右される中で、子どもたちにとって学ぶ時間というのは「子どもらしくいられる時間」でもあり、治療のモチベーションにもつながっているのかなと感じました。
また、この活動をとおし、病気の子どもやご家族の、一見すると分からない背景に目を向けて人に関わることの大切さを学びました。これからも、ちょっと上原美香さん年上のお兄さんとして、私たちだからこそできることを続けていきたいです。
◆病気を抱える子どもたちが社会で活躍できる未来のために
未来ISSEYの活動によって、県内でも病気を抱える子どもやその家族への支援の輪が少しずつ広がってきています。
様々な条件が混在する中で、同団体のスタッフは、病院や外部などと連携を取り信頼関係を築きながら、その子に合った支援を行っているため、大変さを痛感する場面も多いそうです。また、課題を解決していくには、地域全体で当事者を支えていく必要があると同団体は感じています。
病気を抱える子どもたちが、10年後には社会で活躍できるように、同団体は、これからもその環境づくりを目指していきます。
未来ISSEYの活動について詳しくはこちら(本紙5ページの二次元コードをご参照ください。)
▽みらいキューブ利用者 上原 美香さん
同じ境遇の親同士が交流できる「みらいキューブ」は、当事者にとって心強い存在だと思います。私自身、9年前に長男がウィリアムズ症候群と診断されたときは、絶望のどん底でした。そんな中、当事者同士で交流することで、前向きになれました。
この先、子どもたちには、いろんな世代の人と関わって、たくさん経験を重ねてほしいです。どんな状況でも自己肯定感を高めていける社会になってほしいですね。
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