■専門家に聞きました!
◆塩川和夫博士、鹿児島観測所について詳しく教えて!
Profile/しおかわかずお
神奈川県出身/1990年から名古屋大学の空電研究所の助手として就任、1999年から准教授、2008年から教授。現在は、宇宙地球環境研究所所長、国際連携研究センター兼電磁気圏研究部教授。地上からオーロラや夜間大気光に関連した光学・電磁場観測を行い、それを人工衛星による観測と組み合わせて、地球の電磁気圏・大気圏の変動を観測的に研究。
○なぜ垂水市に鹿児島観測所?
宇宙と地球の環境の研究のためには、光、電波、宇宙線、地球磁場、大気計測などの観測について、それぞれ最適の観測条件が得られる場所が必要となります。
名古屋大学宇宙地球環境研究所は、国内では北海道や富士、豊川、鹿児島、海外では北極、南極から赤道まで、各地にそれぞれの観測目的に応じた観測所・観測点を設けています。
鹿児島観測所は赤道域と中緯度の境界付近に位置し、赤道の現象の中低緯度への拡がり、極域の現象の中低緯度から赤道への拡がりを調べることに適しています。自然の電波や地磁気を計測するためには、電磁ノイズが少ない場所で観測を行う必要があり、送電線や人家が少ない垂水の畑地の中に観測点があります。
○世界規模で珍しい観測ができるって本当?
先ほど述べたとおり、鹿児島観測所は赤道域と中緯度域の境界に当たります。また、鹿児島の磁力線をたどっていくとオーストラリアのダーウィン付近に到達します。
赤道特有の電離圏の現象である赤道プラズマバブルが鹿児島まで拡がってきた現象を、鹿児島とダーウィンで同時に夜間大気光で撮像観測した結果、両者が鏡像のように裏返しになっていることが分かっています。これは、電離圏のプラズマバブルが地球の磁力線を介して南北半球でつながっていることを表した世界的にも貴重な発見です。
○私たちの生活にどのように役立っているの?
地球の環境を大きく支配しているものは「太陽エネルギー」ですが、太陽からは光だけではなく、高エネルギーのプラズマ(電子やイオン)もやってきます。このプラズマは、地球の周りの宇宙空間の磁場を変形させ、電離圏を乱してオーロラや磁気嵐を起こし、地球大気の環境にも影響を与えます。太陽で発生する巨大な太陽フレア爆発は、地球の放射線環境や超高層大気を激しく乱す地磁気嵐を発生させ、衛星通信、衛星測位などのインフラに大きな障害を与える場合があります。長期的な太陽活動の変化が地球気候に影響を与える可能性も指摘されています。
鹿児島観測所で計測している地磁気や電波、夜間大気光のデータは、この地球の周りの宇宙空間の変化や磁気嵐の発生をリアルタイムで表し、その発生原因や超高層大気への影響を調べるために役立っています。また、データベース化され、世界の研究者に公開されています。
▼ここで、16・17ページの答え(垂水市に設置している機器)を教えてください。
Q1答え
数十Hzから数十kHzの周波数帯(ELF/VLF帯)の電波を観測します。これらの電波は、地球の周りの宇宙空間(ジオスペース)から来たり、東南アジア地域の雷から来ます。名古屋大学以外にジョージア工科大学(アメリカ)の機器があります。
Q2答え
地磁気の変動の中で、高周波(0.1~100Hz付近)の地磁気脈動や、日本列島で発生する雷に伴う地磁気変動を測定します。垂水市の観測所には電気通信大学の機器があり、佐多の観測所には名古屋大学の機器があります。
Q3答え
上野台地にある各機器が収集したデータが記録されます。その他にも各機器の駆動回路があります。名古屋大学以外にジョージア工科大学(アメリカ)、東北大学の機器があり、世界規模で珍しい観測ができます。
Q4答え
地磁気の変動を測定し、磁気嵐に伴って地球の周りに流れる電流や、低周波(0.1Hz以下)の地磁気脈動を調べています。これらの電流や地磁気脈動は、地球の周りの宇宙空間の状態を表す重要な指標です。
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