他の感覚と同じように嗅覚も加齢に伴い低下しますが、視覚や聴覚と異なるのは、低下したことに自身が気付きにくいといわれていることです。嗅覚障害の有病率は、検査の場合28.8%であったのに対し自覚に基づく調査では9.5%だった報告があります。
嗅覚障害の危険因子として加齢・男性であること・鼻副鼻腔(びくう)疾患(蓄膿症など)・糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病・うつ病やうつ状態・喫煙などが挙げられています。その他にアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では、高頻度に嗅覚障害が現われることが報告されていますが、これらの疾患で認知症が現われる前の軽度認知障害の段階で嗅覚低下が出現することも知られるようになってきました。ある調査によると、健常な高齢者のほとんどがカレーの匂いが分かるのに対して、軽度認知障害の人は約70%、アルツハイマー病患者は約35%しか匂いが分からないという結果があり、カレーの匂いが分からなくなったら認知症を疑う必要があるのではないかと提唱されています。
それでは、嗅覚低下を予防する手段は何かあるのでしょうか。加齢と男性であることは避けようがありませんが、それ以外の危険因子である鼻副鼻腔疾患・糖尿病や動脈硬化・うつ病に関しては適切な治療と予防により回避できる手段がありますし、禁煙も重要です。さらなる積極的な予防策として習慣的な運動がいわれています。週に3回以上、汗をかく程度の運動をすることにより、10年後の嗅覚低下の危険率が0.73と減少するのに対し、鼻副鼻腔疾患の有病者では1.47、過去5年以内の喫煙者の危険率が1.82といずれも上昇したことが報告されています。
また、欧州を中心に嗅覚障害の治療として嗅覚トレーニングが用いられていますが(バラ・ユーカリ・クローブ・レモンの匂いをそれぞれ1日2回10~15秒ずつ嗅ぐという方法)、この方法を高齢者に4カ月間行うことにより、嗅覚障害が予防されたとの報告もあります。ユーカリやクローブなどを入手するのは困難かと思われますので、代わりに食事の際のみそ汁やコーヒーなど、なんでもいいので最低2種類の匂いを嗅いでみることをお勧めします。
最近、嗅覚障害が認知症やフレイル(高齢期に身体的予備能が低下した状態)と深く関わることが知られるようになってきました。嗅覚障害に対する治療法の選択肢はまだ少ないため、予防がとても大事であるといえます。
今月のドクター:指宿医師会 岩元 光明(いわもと みつあき)
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