■他人事ではない「相続」
いつ自分が相続人や被相続人になるかは、誰にも分かりません。
当事者になっても慌てることがないよう、相続について考えておくことが大切です。
県司法書士会 霧島支部長
野間 修二さん(67)
被相続人や相続人全員の戸籍など必要書類を集め、遺産分割協議書を作成し、法務局に申請書と併せて提出する。一見すると簡単そうな相続登記の手続きですが、専門の法律家がいます。
◇司法書士の役割
相続登記における司法書士の役割は、相続人の間で合意した遺産分割協議の結果を書面にし、戸籍などと併せて法務局に申請することです。「それだけのことでお金を使うのは…。と依頼をためらう人も多くいますが、必要経費と割り切った方が良い場合がほとんど」と話すのは、県司法書士会霧島支部長の野間修二さん(67)です。
相続登記の申請は司法書士だけでなく個人でもできますが、遺産分割協議書の作成や戸籍の読み解き・収集など、専門的な知識が求められます。「親から子への簡単なものであれば、個人でも十分可能な手続きです。ただ、必要書類が不足していたり定められた形式を守れておらず何度も修正を求められたりと、途中で挫折したという話も聞きます。我々司法書士でも戸籍の読み解きには相応の労力を必要とするので、個人で行うには負担感が大きいかもしれません」と続けます。
◇時間の経過と共に増す厄介さ
相続が発生した後、遺産分割協議などが終わらないうちに、相続人の誰かが死亡し別の相続が発生していることを、数次相続といいます。一つ目の相続から時間がたつほど二次、三次といった相続が発生しているものが多くなります。
野間さんは「相続の最も厄介な点が、放っておくほど事態が複雑化し、手間も必要経費も増え続けること。相続人が100人規模に及んだり、海外に移住した人がいたりすると大変な労力に。なるべく早い手続きを、と言うほかありません」と話します。
不動産の所有者は1人だけとは限らず、一つの不動産に対して複数人で持ち分を設定し、共有することができます。「法定相続分の持ち分割合で登記を行うこともありますが、あまりお勧めはしません。土地全体を売る場合に名義人全員の同意が必要で、1人でも反対があると手続きは難しくなります。また、相続のたびに手続きが必要になり、共有者が増え続けることになるので、できることなら所有者は1人の方が、後々苦労が少ないでしょう」と勧めます。
◇相続登記は利活用の初めの一歩
売却や賃貸など不動産の活用を考える上で、名義変更は必要不可欠。相続登記の義務化は知っていても、何から始めれば良いのか分からないという人も多いのではないでしょうか。
県司法書士会霧島支部では年に3回ほど、無料の相談会を開催しています。「遺産分割の内容は相続人の間で話し合うほかありませんが、遺言書の書き方や相続登記の流れなど、気軽に利用してもらえたら」と野間さんは笑顔を見せます。
「疎遠になっている親族など、思わぬ親戚の相続人である旨の通知が届いたという相談も多くなっています。いつ誰が、相続人や被相続人になるかは分かりません。個人の大切な財産について、まずは家族で話しておくことが何より大切ではないでしょうか」
さまざまな理由で、相続登記されていない不動産。それらが増えるにつれ、適切に管理されない土地・建物や所有者不明土地、耕作放棄地の増加につながっています。
面倒だから・分からないからと長年放置すれば、さらに厄介な事態に陥る可能性も。そうなってしまえば、資産としての売却や活用自体が難しくなります。
今回は相続登記の義務化と、義務化を前に始まっている制度なども紹介しました。厄介な“負”の遺産になる前に、相続する・相続させる財産のことを、家族や親戚で話しませんか。
■相続後の空き家売りたい・貸したいをお手伝い
市では空き家の解消のために「空き家バンク」「空き店舗等ストックバンク」制度で、掲載希望があった物件情報をホームページなどで公表し、購入・賃貸を希望する人との橋渡しを行っています(手続きは不動産業者が行います)。
物件の登録要件など詳細は、市ホームページをご覧になるか問い合わせください。
◇空き家バンク
空き家だけでなく、付随する農地も登録できます。売却希望の場合は、相続人への名義変更が必要です。
・登録料…無料
・登録方法…申込書・登録カード(地域政策課で配布、市ホームページからもダウンロード可)を直接か郵送
問合せ:地域政策課
【電話】64-0952
◇空き店舗等ストックバンク
空き店舗・空き家のうち、商工業での活用を目的として、売買や貸し付け希望の物件を登録できます。
・登録料…無料
・登録方法…申込書(商工振興課で配布。市ホームページからもダウンロード可)、同意書・誓約書、登記事項証明書を直接か郵送
問合せ:商工振興課
【電話】64-0912
■空き家の適切な管理のために
◇わが家のエンディングノート
自宅を将来の空き家にしないための「わが家のエンディングノート」を配布しています。自身のこれからだけでなく、大切なわが家の今後を考えませんか。
◇霧島市空き家対策
相続した空き家の活用や処分の手続き方法などを分かりやすくまとめた冊子です。相談先や管理するための注意点なども紹介していますので、ぜひ活用ください。
◇共通事項
・配布場場所:建築指導課、各総合支所地域振興課
問合せ:建築指導課
【電話】64-0954
[INTERVIEW]
○所有者不明土地が減れば災害時の復旧も迅速に
九州電力送配電(株)鹿児島支社用地計画・保全グループ
松田 貴司さん(57)
送電線・変電所などの用地確保に向けては、土地所有者などとの用地交渉が必要となります。その際、所有者確認のよりどころとなるのが土地登記簿です。1月に発生した能登半島地震などの災害時には、電力の復旧が急がれます。災害復旧対応においても、相続登記に基づく登記簿での正確な土地所有者が確認できれば、速やかな用地交渉による早期復旧にもつながります。
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