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【連載】随想町長の見て歩き(111)

16/24

山形県飯豊町

◆「旅人よ」

桜の蕾がわずかでも膨らみ始めるのを目にしたくて幾度となく庭に足を運んだ。根雪の下で冬を過ごした動物たちが地中に潜った痕跡があちこちに残る土の感触を確かめながら歩く。この冬の気温なら春の訪れは早まるはずとの期待は見事に肩透かしを食らい、突然の降雪にまるで初雪の季節に戻ったかのような風景が広がった。こんな想定外の出来事はいつだってある。ただ、無防備に膨らんでしまった木々の新芽に新雪が絡み付いてしまい、風邪をひかなかったろうかと心配した。

四月一日に新しい元号が発表され、「令和」に決まった。外国特派員は「オーダー・ハーモニー」と英訳したというから国際化のなかの元号制定はやはり社会を高揚させる。出典は万葉集、大伴旅人(たびと)との序文という。酒壺つぼになりたいというほど酒を愛した人物との紹介文を読むと、がぜん「令和」の元号に親しみが湧(わ)いてくるから不思議なものだ。

「旅人(たびと)」の名前が目に飛び込んできたから突然スイッチが入った。加山雄三が歌う「旅人(たびびと)よ」、中島みゆきの代表曲「時代」、そして、山口百恵の忘れじの名曲「いい日旅立ち」である。いずれの曲も強力なメッセージが込められている。「草は枯れてもいのち果てるまで、君よ夢をこころに若き旅人よ、めぐるめぐるよ時代はめぐる、別れと出会いをくり返し、今日は倒れた旅人たちも、生まれ変わって歩き出すよ、ああ日本のどこかに私を待ってる人がいる、いい日旅立ち…」。

春は旅立ちと出会いの季節である。白鳥は北に帰り、桜前線が近づく。発(た)つ人いれば新しく着く人がいる。長く飯豊に居住する人々にも新しい世界が広がる。朝の地平線に向かって思う。若者よ、眠れない夜があってもいい、将来への不安に打ちのめされるときがあってもいい、ただ、忘れてはならないたった一つのことがある。勇気をもって胸に刻もう。それは未知なるものへの挑戦であり、夢を抱き続ける心である。脱出するのが旅ではない、明日に向かうことが旅なのである。

旅人(たびびと)は、未知なる明日に向かい歩き続ける、探検家でもある。

後藤幸平

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