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ふるさとの誇り 157 〇(まる)博レポート

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山梨県南アルプス市

◆徳島堰350年(2)
▽川を横断する
先月に引き続き、完成して今年で三五〇年の「徳島堰」についてご紹介いたします。
前回は、砂の大地「御勅使川扇状地」の特徴から、現在のフルーツ王国南アルプス市を支え、生活の一部となった堰の存在など、徳島堰の全体像をご紹介しました。今回は、この堰の工事に立ちはだかった難敵について、技術面と併せてみていきたいと思います。
徳島兵左衛門は、御勅使川の水量では御勅使川扇状地一帯に水を行き渡らせることができないと考え、韮崎市円野町上円井から釡無川の水を引くこととしました。
取水口から最終地点の曲輪田新田までの十七キロメートルは、遠方まで水を届けるために山裾の地形に沿ったルートを取っています。その分、西の山々からは何本もの川が流れ下っており、徳島堰を造るにあたって最大の悩みの種は、これらの川をいかに横切らせるかでした。
堰が川を渡る方法は主に三種みられます。多くの川では川の下に木製の箱樋(はこどい)を埋め、トンネル(埋樋(うめどい)・暗きょ)にして水を流しました。他には川の上を木製の樋を橋のように渡して横断する方法(掛樋(かけどい))や、後世になると山から流れ下る川の水をせき止めて徳島堰の水と一緒に堰に流す方法(請込(うけこみ))などが用いられました。
ルート上、旧折居村の山吹沢など四箇所の大難場があったと言われますが、中でも最大の難所が御勅使川でした。御勅使川は川幅が六〇〇メートルもあり、天下の暴れ川として知られる河川です。兵左衛門が御勅使川を横断する最初の方法として採用したのが「板せき」と呼ばれる工法で、御勅使川の水を板を並べてせき止め、徳島堰の水と合流させて堰に流すという方法です。板せきは、徳島堰と御勅使川の河床が同じ高さであったことがうかがえますが、それから四十年あまりの間に御勅使川の河床が上がったため、埋樋に変えられ現在のように暗きょとして川の下を横断したものと考えられます。このように、時代とともに川の高さも変わり、横断の仕方が変わっていくのも特徴です。
『徳島堰根源記』という記録には、江戸から連れてこられた技術者と考えられる人々の名前が見られるため、起伏に富んだ地形に合わせ一定の勾配を保つ測量の技術と、これらの川を横断する高い土木技術は江戸から導入されたものと考えられます。

徳島堰について紐解くと、耕作面積を増やす目的とともに、舟運の構想についても必ず触れられます。
確かに、着工する前の構想段階では、兵左衛門は用水路の終着点を鰍沢にしていたと言われています。鰍沢は、十七世紀初頭に整備された富士川舟運における甲斐国の最大拠点でもありますから、兵左衛門は新たな水路と舟運との接続を想定していた可能性は高いでしょう。しかし、現実的には、先ほど紹介したように、ルート上には掛樋や埋樋などを二十箇所以上設置しなければならず、また、舟を通すには勾配が急すぎて舟を通すだけの水丈を確保できないことなどから、そもそも不可能といえ、早い段階で鰍沢までの通水プランをやめ、予定よりも水路の幅も狭め、用水路目的の一本に絞ったとみられます。

寛文七年、兵左衛門の後、事業を引き継いだ甲府藩より堰の復旧工事を命じられたのが、武田氏旧臣を出自とする有野村の矢崎又右衛門とその父佐治右衛門でした。矢崎父子はまず数ヵ月かけて測量・設計を行ったのちに復旧工事に着手しますが、工事開始早々の寛文八年五月には立て続けに三度も水害に見舞われ、釡無川の取水口や御勅使川の板せきなど各所に被害が発生します。徳島堰と交差する巨摩山地から流れ出る川の数々は、たびたび多くの土砂を含んだ洪水を起こし、堰を破壊してしまうのです。そのため、埋樋のように川と堰とを立体的に交差させて対策するのですが、一筋縄では進められなかったようです。その後も損壊と修復とを繰り返し、寛文十年(一六七〇)に完成へと漕ぎ着けます。
それがちょうど今から三五〇年前のことであり、その後も改良に改良を加え、現在まで、南アルプス市の暮らしを支え続けているのです。

・徳島堰絵図
天保四年(1833)・矢崎家蔵
天保四年の絵図であり、完成当初とは工法の異なる箇所も多くあるが、絵図の中には山から流れ出る川の数々や、それらをどのように横断しているかを読み取ることができる。現在ではサイフォン方式の採用などさらに変化が見られるので、ぜひ現地を訪れていただきたい。

・御勅使南公園内は、コンクリート杭で地下に通る徳島堰の位置が示されている。

・現在の御勅使川暗きょの出口。桝形堤防の南約150mに位置する。

文:文化財課
※写真等は「広報南アルプス 2020年8月号」13ページをご覧ください。

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