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稲敷魂! 稲敷市の文化財(7)-2-

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茨城県稲敷市

■特別展「中世文書の世界~懸命に守り候もの~」
展示図録推薦のお言葉を紹介します。

令和2年2月から4月に歴史民俗資料館で開催されました特別展の図録が好評です。1冊1500円で頒布している他、図書館でもご覧になれます。ぜひご覧ください。

▽特別展・図録『中世文書の世界』発刊に寄せて
茨城県文化財保護審議会会長・土浦市立博物館館長・常磐大学名誉教授
糸賀茂男

(1)〝驚きの史料集〞
この図録に接して、その圧巻にして丁寧な心配りに驚きました。私達が常に思い望む理想的な〝史料集〞の誕生です。義務でもなく、世辞でもなく、この図録(史料集)を褒めちぎる自信があります。
江戸時代以前の古文書(こもんじょ)は多様に日本文化の最大特色です。原本を眼前にすれば最高の魅力(みりょく)を感じますが、なかなか即座には理解が得られません。〝史料集〞はその理解を補助すべき役割を持ちます。しかしながらその〝史料集〞の作り方が肝要(かんよう)で、多くは翻刻文(ほんこくぶん)(墨書の活字化)中心で、参考に写真図版を少々掲載する程度なのです。この図録は一気に、限りなく、私達を原本に近付けてくれます。つまり医学(療)的・体育(学)的で、人と物の機能(物理的・精神的)が知られ、あるいは美(学)的〈墨書「運筆」の技〉・学芸的〈文字表現の民族性への注目〉なのです。

(2)完璧な誘(いざな)い
手に取れば一目瞭然ですが、私なりにこの図録を案内してみます。
第一部では〈家わけ〉と呼ばれる所蔵者10家ごとの紹介です。まず各文書群に学術的呼称をつけ、全体を概観し、個別に整理番号(配列の決定)・伝来保管の形(現)状・文書名(中世古文書はこの命名が重要、一部『茨城県史料中世編1』収録番号)が付されて写真図版の完全掲載です。この写真図版を拡大鏡を用いてゆっくり、じっくり観察する事が魅力発現の根源です。次いで古文書の本命とも言うべき本文が活字で翻刻されています。これを釈文(しゃくもん)と呼びますが、読み方は中々至難です(各行とも写真〈原本〉通りの字配り)。そしてその後にコラム(関係補注)が入り文書毎(ごと)の「目録」があります。この目録により改めて各古文書の概要(伝来保管形状・文書名・作成年次・差出者・受取者・法量(料紙の大きさ)〈縦・横寸法〉・備考(料紙種別・形状〈特に折り目〉・料紙仕様・補入文言と記号〈書札礼的〉等)を知り得ます。この観察成果の報告こそ医学(療)的・体育(学)的、あるいは解剖学的というべきです。
第二部では、5本の論考が4人の専門性を遺憾なく発揮される内容で、各古文書群の概要と特に留意すべき文言(史実とその背景)の解説に努めています。ここまで言及しなければ「中世古文書」は理解できないのです(一点毎の古文書は決して完全な歴史の証言者ではありません)。
しかし総じてこの図録によって私たちは堂々として稲敷地域での中世・近世(鎌倉〜江戸初期)の社会探索(たんさく)に出掛けられるのです。針穴のような小さな窓から、その向こうに広がる果てなき歴史の光景を思い廻らせる事が出来るのです。
最後に収録されている『安得虎子(あんとくこし)』をご覧ください。これは江戸時代後期の潮来村の学者宮本茶村(ちゃそん)の中世古文書採訪収録のノートです。自らの意思で稲敷地域の調査を続け、確かに各家所蔵の中世古文書を写し取っています。この茶村の過去への異常なまでの執着は何であったか、学者故に、では片付けられない、私達にとっての大課題であると思います。

(3)今後の歴史学習の糧(かて)に
このような図録が刊行された今、私たちの歴史学習は新たな段階を迎えたと思います。歴史関係図書(専門書・小説・物語・自治体史・観光案内書等)や歴史探訪を踏まえつつも、この図録に収められた一点毎の原史料(原本ではなくとも、かなりの高い精度で原本に迫り得るし、近付ける)を時間をかけて読解する手法が大切です。
望蜀(ぼうしょく)の念から言えば、一点毎の〝読み下し文〞(漢字のみの文脈を日本語読みにする事)があればかなり内容把握が進み、加えて文言・用語の意味(語意)を知れば相当に歴史の事実が分かります。結果、現代語訳も容易です(論考の中で部分的に見える)。
しかし、これからはこの様な古文書の利用・活用が必須になる傾向が強まり、読者の皆様にとってそのための学習の場も今迄(まで)以上に機会が増えるはずです。生ある限り学習するのが人間の宿命であり義務であると思えば、学習もまた楽しい日常かと思います。
稲敷の地に生まれた〝中世文書の世界〞を大いにご堪能(たんのう)下さい。文化財としての古文書は、見てよし、読んでよし(黙読から音読へ)、考えてよし、活用してよし…限りなく功徳(くどく)の宝庫です。とりわけこの図録は、私たちの座右の書として、否、稲敷地域の至宝として多くの古文書原本と共に永久に残って欲しい一書です。
実はこの拙文を書いている私自身、見事な〝史料集〞との出会いにこの身を震(ふる)わせる程の興奮を覚えています。自身中世史に興味を惹(ひ)かれる学徒の一人でありながら、これほど迄に編集が行き届いた〝史料集〞を見た事がありません。そのために図録を手にした喜びと驚きは一入(ひとしお)です。今はただ我が机上の『中世文書の世界』に対して〝帰命頂礼(きみょうちょうらい)〞あるのみです。

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