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(特集)アートのチカラ(2)

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熊本県熊本市

◆街なかの文化と、人をつなぐ存在「文化リンクワーカー」に期待
(日比野)少し前にMoMAで「美術館に行くことで脳が刺激を受け、認知症の症状が進行するスピードを緩和できる」という話が話題になりました。「文化的処方」って言うんですけど、この処方を受けられる環境を整えていきたいですね。例えば、日頃から美術館に慣れ親しんでいる人はいいんですが、まだまだ敷居が高く感じている人が多いと思います。そんなとき、一緒に付いて行って対話しながら観てくれるケアマネージャーがいるといいですよね。「文化リンクワーカー」というんですが、まだ日本にはないこの職業を浸透させていきたいです。今、芸大を卒業してもキャリアを生かした仕事の選択肢は少ない。でも、文化リンクワーカーという職業を確立すると、アートが社会に果たす役割が実態として見えることになります。もう一歩踏み込むと、文化リンクワーカーを利用するのに介護保険が使えるようになればいいですね。これは国の範疇(はんちゅう)になりますので時間がかかると思いますが、実現すると美術館が福祉施設としての意味合いも持つようになります。
(大西)文化リンクワーカー、とてもいいですね。早速やりましょうよ。ぜひ市町村の垣根を取り払ってやりたいですね。例えば、天草の看護学校に通う学生が現美で学ぶことで文化リンクワーカーをめざしてもらったり。これまで本市は多くの課題を抱えていましたが、アート的なアプローチで解決策を見つけることはありませんでした。でも、館長とお話しして改めて「アートは社会の処方箋だな」と実感しました。

◆アートも市政もプロセスを共有することで大きなチカラが湧(わ)く
(大西)熊本地震の後、館長は市民を励ますためにいち早く熊本においでになり、避難所などでワークショップを開催されていましたね。
(日比野)阪神淡路、新潟中越、東日本、熊本とさまざまな震災を経験しながら、私のアート活動も少しずつ変化してきました。特に印象に残っているのは、東日本大震災の後に避難所を訪れて布をハート形に切り取って縫い付けるワークショップ「ハートマークビューイング」をした時のことです。参加した年配の女性が「どう切ろうか?どう縫い付けようか?と、先のことを考えるのは久しぶりだわ」と頬をゆるめたんです。被災者は、恐ろしい経験をした過去を振り返りたくないし、未来のことも考えられない。今、まさに1秒1秒を生きる数か月間を避難所で過ごしてきたんだと気付かされました。一方で物を作るという行為は少し先を想像することですから、1分後が想像できれば1時間後、1日後、1か月後と少しずつ先を見ることができるようになっていく。自分の中の時間を動かす柔軟性が復活する。それがアートのチカラだし、人間の生きるチカラだと思いました。ですから、熊本地震の時も博多でカラフルな色テープを大量に購入して持ち込み、避難所の段ボールベッドに彩りを加えるワークショップをみんなで行いました。
(大西)私は段ボールを確保することにしか発想が向きませんでしたから、やっぱりアートという視点は大切ですね。きっとそのワークショップを通じて市民も「よし」と、前を向く気持ちになれたんだと思います。
(日比野)私の目標のひとつは、「芸大にいきたい!」といったときに親が「それはいい。芸術は社会の役に立つからな」と言ってくれる社会をつくることなんです。
(大西)私は市政においても日比野さんのアートプロジェクトと同様に、市民とプロセスを共有することで生まれる納得感を大きな原動力に変えていきたい。74万人の市民の皆さんの中にあるアーティスティックなチカラで熊本の未来を一緒につくっていきたいですね。

◆これまでのアートプロジェクトの歩み
・2007年度 HIGO BY HIBINO展
熊本の「街」「人」と日比野さんが、約1年前から検討を重ね作り上げた展覧会。会場内に築城400年を記念した巨大な石垣を制作しました。

・2008年度
MATCH FLAG PROJECT in KUMAMOTO
サッカーワールドカップに向けて日本と対戦国の国旗をデザインした旗を作り、両国を応援するアートプロジェクト。現在も国内外で進行中。

2016年度 熊本復興応援マッチフラッグ
熊本地震からの復興と、ロアッソの応援のために下通アーケードでフラッグを作成。ロアッソの選手や、通行中の市民が一緒になって作成しました。

・2018年度 日比野克彦 公開制作
美術館を飛び出し、熊本パルコ下通側店頭でライブペイント。大勢のギャラリーの前で、高さ約5mもの大作を約3時間で仕上げました。

◆今後の展望
・2022年度「アートラボマーケット」始動予定
開館20周年を記念し、館内一部をリニューアル。気軽に手を動かしながらアート的な視点で対話ができるスペースをオープンします。より使い心地の良い空間にするため、近くクラウドファンディングも開始する予定。詳しくは同館のホームページに掲載します。

問い合わせ:
現代美術館【電話】278-7500
文化政策課【電話】328-2039

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