- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道白糠町
- 広報紙名 : 広報しらぬか 令和8年1月号
酒井空知さん
2002年白糠町生まれ。白糠中学校時代は陸上少年団に所属。札幌の高校を卒業後、東京の大学へ進学するも4カ月で退学。2022年、夢だった海外自転車旅に出発し、翌年から国内外の自転車ウルトラレースにも参戦している。
酒井さんのインスタグラムは本紙下の二次元コードから
2022年から海外自転車旅を続けている白糠町出身の酒井空知さんが、自転車で世界を走るようになった背景には「外の世界を自分の目で見てみたい」という素朴な動機がありました。
白糠で育ち、身近な風景の中で過ごしてきたからこそ「一度、町の外に出てみたい」「知らない場所を見てみたい」という思いが自然に芽生え、自転車はそのための手段でした。
時間をかけて移動し、土地の空気を感じ、人と出会う。その積み重ねが、いつしか海外を走ることにつながったと酒井さんは話します。
そんな酒井さんが世界で最も過酷と言われる自転車レース「シルクロードマウンテンレース」に挑戦し、日本人で初めての完走者となりました。
――まずは、今回完走された「シルクロードマウンテンレース」について、どんなレースなのか教えてください。
一言で言うと、自転車にも人にも、とにかくダメージが大きい過酷なレースです。未舗装路や自転車を担いで進まなければならない区間も多く、自転車に乗る人でも「それは何だ?」と驚くような内容です。そういったものを総称して「マウンテンレース」と呼んでいます。
中央アジアのキルギスで開催される「シルクロードマウンテンレース」は、そのマウンテンレースの中でもかなり早い時期に始まった大会で、今年で7回目になります。世界的に見ても、このジャンル自体がまだ10年ほどの歴史しかない、新しいレースです。
――酒井さんは、もともと自転車がとてもお好きだったと聞いています。自転車旅から、なぜレースに挑戦するようになったのでしょうか。
自転車旅自体は、今も同時並行で続けています。もともと自転車で国内外を旅するのが好きで、世界を回っていました。その中で、キルギスを訪れたときに、偶然シルクロードマウンテンレースの存在を知ったのです。
調べてみると、国際的にはとても有名なレースなのに、日本人の挑戦者が過去に誰もいないことが分かりました。そのことにも、すごくワクワクしたのです。「次にキルギスへ行ったときは、このレースを走ろう」と思いました。
――過酷なレースへの挑戦に不安はありませんでしたか。
不安はもちろんありました。ただ、これまで自転車旅を通して海外を走ってきた経験があったので「何が起きるか分からない」という状況自体には、ある程度慣れていたと思います。それよりも、「まだ誰もやっていないことをやれるかもしれない」という期待のほうが大きかったです。
――レースの規模や距離について、もう少し詳しく教えてください。
今年のキルギスのコースは、距離が約1954kmで、獲得標高はおよそ3万メートルでした。日によっては1日で200キロ近く走り、4千メートル以上登ることもあります。
キルギスは国土の半分ほどが標高3千メートル以上にあります。富士山と同じくらいの高さでも、特別な山頂というわけではなく、当たり前のように、ただの「道」が続いている感覚です。その標高を何日もかけて走り続けます。
――体への負担も相当なものですね。
そうですね。体力的なきつさもありますが、自転車自体へのダメージも非常に大きいです。実際私も初参加の昨年の大会では自転車のフレームが折れてしまい、リタイアを余儀なくされました。セルフサポートが原則なので、トラブルが起きても基本的には自分で対処しなければなりません。
――完走率もかなり低いと聞きました。
完走率はその年にもよりますが、例年3割から5割です。今年は過去最多となる41カ国から270人が参加し、完走者は128人と半数を割りました。今年のコースは今までで一番過酷だとも言われていて、それが数字にも表れていると思います。
――日本人として初めての完走となりましたが、その瞬間はいかがでしたか。
ゴールの街に入って残り2キロくらいのところで、急に感情があふれてきて、もう号泣してしまいました。
ゴール地点では主催者が迎えてくれて、最後はハグをして「おめでとう」と声をかけてくれました。その瞬間に「ああ、本当に終わったんだな」と実感しました。
終わってほっとした後に、じわじわと次なる挑戦の欲が湧いてきました(笑)
――このレースを通じて、特に印象に残っていることは何でしょうか。
一番強く感じたのは「人」です。レースに参加すると、本当にいろいろな国の、とんでもない挑戦をしている人たちに出会えます。多くの人が強い信念を持っていて、人としてすごくかっこいい。
言葉や国籍を越えて、そういう人たちと同じ時間を過ごせるのがレースの一番の魅力だと思います。もちろんこれは、多くの他のスポーツにも同じ魅力があると思います。
――経験を通して、酒井さん自身の考え方にも変化はありましたか。
やっぱり「体験しないと分からない」という思いが、より強くなりました。情報はいくらでも手に入る時代ですが、文章や写真、動画で知った気になるのと、実際に現地に行って自分の体で体験するのとでは、得られる情報量がまったく違います。
私は「百聞は一体験にしかず」と良く言うのですが、それを大切にしています。
――最後に、この記事を読む若い世代や町の皆さんへメッセージをお願いします。
海外は、決して特別な人だけが行く場所ではありません。今は情報も制度も整っていて、誰にでもチャンスがあります。
大事なのは、知っているだけで終わらせずに、一歩踏み出してみることだと思います。テレビやインターネットで世界のことはたくさん知ることができますが、実際に行ってみないと分からないことが本当に多いです。
体験することでしか得られない感覚や気づきがあって、それは必ず自分の中に残ります。
町の海外研修事業の話も聞いています。若いうちに海外を体験できる機会が用意されているのは、本当に貴重なことだと思います。
うまく話せなくてもいいし、失敗してもいい。その経験自体が、大きな財産になります。
語学力だけではなく、価値観の違いに触れることが大切だと思っているので、自分の「当たり前」が、世界では当たり前ではないと知ることが、その後の進路や人生の選択に影響していくと思います。
これからも活動を続けていくので、地元に還元というか、皆さんと何か一緒にできることがあればいいなと思っています。また、皆さんに私の活動を知ってもらって、応援していただけたら嬉しいです。
■酒井さんの写真展を開催します
酒井さんが「シルクロードの景色」をテーマに撮影した風景や人々の生活の写真を公民館図書室で展示します。
期間:令和8年1月24日(土)から2月8日(日)まで
会場:公民館図書室1階
問合せ:社会教育課文化振興係
【電話】2-2287
