- 発行日 :
- 自治体名 : 愛知県田原市
- 広報紙名 : 広報たはら 令和7年12月号
■雲龍山 長興寺の観世音菩薩立像
市内大久保町にある雲龍山(うんりゅうざん)長興寺(ちょうこうじ)に伝わる観世音菩薩立像(かんぜおんぼさつりゅうぞう)について紹介します。長興寺は寺伝(じでん)によると、鎌倉時代の建治元(1275)年、後深草天皇(ごふかくさてんのう)の発願により、大覚寺という天台宗の寺院として創建されたといわれています。その後、一時衰退しますが、室町時代になり、田原城主の戸田氏が菩提寺(ぼだいじ)として復興しました。境内には、歴代戸田氏の墓碑が建立されています。
さて、愛知県指定文化財に指定されている「観世音菩薩立像」は、一木造(いちぼくづくり)でカヤ材と思われる木が用いられています。像高は110cm、彩色はなく、素地のままです。一般的に「観世音菩薩像」と言われると、十一面観世音菩薩像(じゅういちめんかんぜおんぼさつぞう)として認識されることが多いですが、本像は頭上に11の顔がなく、他の観音菩薩の可能性もあるため、「観世音菩薩立像」として指定されています。通称は「鉈彫(なたぼり)観音」として知られています。
本像の最大の特徴は、その通称の由来となっている「鉈彫」という技法です。像の表面全体に、刃渡り約0.5cmの丸ノミの痕が残されており、表面が揺れ動くような効果を与えています。ノミ痕によって装飾性を高めており、また様式的な完成度の高さも評価されています。本像は寺院の創建よりも古い平安時代に制作されたと考えられており、元々は寺の奥の山のお堂にあったという伝承があります。
現在は、境内の収蔵庫に大切に保管されており、4月10日前後に御開帳されています。その威厳と慈悲を感じさせる造形は、多くの方に信仰されています。
(学芸員 三宅良宜)
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