文化 江津とモノづくり~地域おこし協力隊の目線~ 最終回

■かつて「山陰有数の工都」と呼ばれた江津市。今回はその象徴でもある日本製紙株式会社江津工場についてお伝えします。
地域おこし協力隊 後藤 響介

江津のまちを見渡したとき、目を引くのが江の川河口近くに立つ2本の赤白煙突。その姿に、かつて江津が「山陰有数の工都」と呼ばれた面影を重ねる方も多いのではないでしょうか。

■紙を作らない製紙会社の工場
「日本製紙」という名前から、ここでも紙を作っていると思われるかもしれません。しかし、江津工場では紙はまったく作っていません。実は木材から取り出したパルプと、その残りの成分を無駄なく使ってさまざまな素材を生産しています。
例えば、身近な日用品の原料のほか、電気自動車などにも使われるリチウムイオン電池の材料、化粧品や一部の食品添加物も、実は木という天然素材から生み出されているのです。
江津工場のルーツは、戦前から操業していた新日本レーヨンを受け継いだ島根化学工業にあります。当時の江津町が蚕糸業からの転換を図る中で、江の川の豊かな水資源と、中国地方各地から集まる木材を活かして誘致された経緯があります。
その後、戦時下での体制変更や会社合併による社名変更、輸入原料が主流になるなど大きな変化はありましたが、工場の現場では木の中に含まれる成分を化学的に加工する「木質化学」の技術を磨いてきました。その技術は今も受け継がれ、「紙を作らない製紙会社の工場」として、国内でも珍しい存在となっています。

■赤白煙突の豆知識
江津工場にある2本の赤白煙突はいずれも高さが約100メートルあります。江津市にある構造物では最も高く、その下にはボイラーがあり、蒸気を使って工場内のエネルギーをまかなっています。煙突から見える白い「煙」のようなものは、実は余った水蒸気です。
ちなみに煙突が赤と白に塗られているのは、航空法により60メートル以上の建物には目立つ色をつけることが義務づけられているためです。

■最後に
今回で「江津とモノづくり~地域おこし協力隊の目線~」は最終回となります。今まで取り上げた内容が、地元の皆さまに思い出話の話題になったり記憶の片隅に残ったりしてくれたら大変うれしく思います。
多くの出会いと発見に恵まれ、私自身も楽しみながら学ぶことができました。取材・編集にご協力いただいた皆さま、そして読者の皆さまに心より感謝申し上げます。