- 発行日 :
- 自治体名 : 熊本県玉東町
- 広報紙名 : 広報ぎょくとう 令和7年8月号
北海道出身のJICAグローカルプログラム実習生が、西南戦争にまつわる史跡を巡り、心に感じたことを綴りました。
■その一「高月官軍墓地」
小さな石畳の坂をのぼると、ひらけた草場に出た。そこを左に曲がって、石階段を数歩あがると、細い墓石が整然と並んでいる。左を見ても右を見ても、ずらりと並んでいる。隊列を組んでいるように見えるのは、ここが「高月官軍墓地」だと知っているからだろうか。ここは、西南戦争最大の激戦地で亡くなった人が祀られている場所らしい。
墓石はじっと動かずに整列している。刻銘に苔が生えても、石の角が丸くなっても、声も出さず、横になることもなく、蒸し暑いなかをずっと立ち続けている。すぐ横ではチョウチョが自由に飛び回っているのに。セミも好きに鳴いていて、木の根は地中から盛り上がって墓を斜めに傾けていた。
彼らが心から休めればいいけれど、僕がしゃがんで撫でたところで、150年遅い話であるように思う。
長谷川 健太