くらし 球磨郡市広報紙研究協議会合同特集 大切な人と話そう。未来の自分につなげる「人生会議」(2)

■ACPと歩む現場から
「自分らしく生き、自宅で最期を迎える」ことを支える在宅医療。ACPとの関わりや現場の工夫を、専門家に聞きました。

▼とやまクリニック副院長 外山裕二(とやまゆうじ)先生
内科胃腸科・肛門科として開業。がん治療を行い退院した患者さんのがんが再発。患者さんの「自宅でみとってほしい」という要望がきっかけで在宅医療の世界へ。

▽医療・介護の連携で支える在宅ケア
在宅医療とは、通院が困難な人が住み慣れた自宅で医療サービスを受けられるよう、医師や看護師などが訪問して診療や治療を行うことです。病院と同じような医療環境を自宅でも実現させたいという強い思いが根底にあります。
ACPの観点から見ると、在宅医療は本人の「最期どこで過ごしたいか」という願いを尊重するための、極めて重要な考え方として位置付けられます。自宅で最期を見送るという選択自体が、ACPが叶っている状態といえるでしょう。かつては自宅でのみとりが困難な状況もありましたが、現在は地域の連携や法解釈の改正により、患者さんのACPを実現するための環境整備が進んでいます。

▽在宅でみとれる環境へ
人吉球磨地域は、九州の中でも在宅率が低い地域です。その背景には、病床や介護施設が非常に多いため、最期は施設に入るのが当然という環境が確立されていたことがあります。対照的に、都会では病床不足から在宅みとり率が急増しています。
しかし現在、人吉球磨でも在宅医療の環境が整備されています。訪問看護ステーションやケアマネジャーが増加し、職種間の連携体制が構築されてきました。これにより、以前の「家族に大きな負担がかかる」というイメージは払拭され、独居の高齢者でも在宅でみとれるケースが増えている状況です。また、地域の保健所や介護施設も、重症者の受け入れやみとりに積極的になってきています。

▽最後まで自宅で過ごしたいという思いに応えるために
在宅医療を進める中で、連携の重要性を痛感した大きな出来事があります。約15年前、自宅で亡くなった患者さんに対し、医師の到着が遅れたために警察の検視が入ってしまった事例です。当時の医師法第21条(無診察診療の禁止)の解釈が厳しく、原則として医師が24時間以内に診察していないと、死亡診断が難しかったためです。この状況を改善するため、国(厚生労働省)が解釈を変更。最終的にかかりつけ医が「病死」または「異状死ではない」と判断した場合には、検案や検視が不要となり、自宅でのみとりが格段にやりやすくなりました。

▽スマホでつながる医療連携
病院での環境を自宅で実現するためには、職種を超えた即時的な情報共有が欠かせません。その目的で導入しているのが、厚生労働省の認可も降りているスマホを使った医療特化型の情報共有システム。これは患者さんごとに「部屋」を持つ仕組みで、医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、そしてご家族などが参加しています。このシステムでは、例えば患者さんの急な訴えに対し、看護師が駆けつけてバイタル情報を測定し、その数値を医師に瞬時に伝えることが可能になります。結果として、病院と同じように迅速な状況把握と、医師からの指示出しが実現。タイムラグのない対応は、在宅での安心感を生み出しています。私が目指すのは、この強固な連携体制を基盤とし、地域全体での医療機能の役割分担を明確化すること。在宅でみとれる患者さんは在宅で、人吉医療センターは救急対応や先進医療といった本来の役割に集中できるような、全体的な医療構想の流れを整えることにもつながります。