「郷土財」とは、「かけがえのない郷土への思いがもてる事物事象」を表す言葉で、その地域の特性や、地域の人がワクワクし、守っていきたいと思えるものを指します。
今回は、ネコギギ保全に取り組む行政と研究者、地域の姿を紹介します。
◎ネコギギとは
ネコギギは、東海3県の川の中上流域にのみ生息する日本固有の淡水魚。ナマズの仲間であり、4対の口ひげが特徴的です。成魚は体長10cmほどです。1977年に天然記念物に指定され、今では生息地の激減により、環境省の絶滅危惧種に選定されています。
▼【行政】ネコギギを守る市の取り組み
《interview》自然学習室 室長 後藤健宏
▽市が繁殖させ、ふるさとの川に放流
市を流れる員弁川水系は魚類の豊富な河川として知られており、過去にはたくさんのネコギギが生息していました。しかし、台風の影響などで、その数は激減しました。このまま放置すれば近い将来には絶滅するとの判断から、三重県教育委員会がネコギギ保護を開始。その後、市教育委員会が保護事業を引き継ぎました。
当初は、川でわずかに残っていたネコギギを保護し、それらを親個体として家系の管理をしながら、室内繁殖を始めました。今では毎年、稚魚が産まれるようになり、日本魚類学会の「放流ガイドライン」に基づいて、ふるさとの川へ放流しています。その結果、環境改善した場所に放流したネコギギがそのまま居つき、川で繁殖していることを確認しています。
自然繁殖の成功で終わるのではなく、今もなお大学などの研究者を中心としたネコギギ保護増殖事業指導委員会の指導を受けながら事業を進め、啓発活動も継続して取り組んでいます。
《interview》里中知之さん
志摩マリンランドでのネコギギの繁殖経験を生かし、2022年から市の地域活性化起業人として勤務。
▽繁殖数を維持していくために
私は、志摩マリンランドに在籍していた2003年から、いなべ市と協力して員弁川水系のネコギギの繁殖に携わってきました。水族館でも、繁殖は苦戦するものですが、いなべ市はそれを2013年に単独で成功させていました。当時から、この実績はすごいことだと感じていました。
ネコギギの繁殖の難しさは、何と言っても家系の管理です。近親交配を続けると、繁殖数が減ってしまうので、家系図を作成し、大学などの専門機関からアドバイスをもらいながら年間の計画を立てています。また、飼育されている個体は、世代が進むごとに繁殖数が減っていくことも悩みの種。現在は、放流したネコギギが川で繁殖していることが分かっているので、繁殖能力の高い野生の個体を取り入れ、長期的に繁殖数を増やしていくことが望ましいです。
いなべ市は、水槽内での産卵を促すため、レイアウトを工夫することで、従来のホルモン剤を使った人工繁殖に頼らずに、水槽内での自然繁殖を成功させました。今後は、そうしたノウハウの上に、より効率的な繁殖方法をマニュアル化することで、担当者が変わっても事業を継続できるような仕組みを作っていきたいです。
▽ネコギギ保全の父
清水義孝さん(北勢町東村)
ネコギギをはじめとする淡水魚の研究者。魚類自然史研究会に所属。現地の川の状況や、そこに住む生物全般に精通しており、現在のネコギギ保全事業につながる基礎を作りました。国土交通省の依頼で、設楽ダム建設に伴う環境保全に携わり、飼育繁殖個体の河川での自然繁殖を成功させ、論理的方向性を文書で示しました。
このほか、専門紙へ報告書を掲載するなど、高い専門性を生かして、保全活動に取り組む人たちにアドバイスを与えています。
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