▼【研究者】シンポジウムで聞く研究者たちの声
昨年6月、市のネコギギ保全の取り組みが、「日本水大賞」の環境大臣賞を受賞しました。
これを記念して、10月29日(日)に開催された「ネコギギ保全シンポジウム」では、保全活動の研究者に講演をいただきました。(後援:文化庁、三重県、三重県教育委員会)
《lecture》
京都大学 准教授 渡辺勝敏さん
▽「奇跡の家系の末裔(えい)」と生きていること
今、生物多様性の保全が、人間の幸福の増進にもつながることが分かり、世界的に取り組みが進められています。地球に生命が誕生してから、さまざまな種が生まれ、派生し、絶滅を繰り返してきました。ほとんどの生物が、子を残せず絶えていく中で、次世代へと命をつないできた「奇跡の家系の末裔」が集まって生きているのがこの世界です。普段はなかなか考えつかないことですが、ネコギギの保全を通じて、その本質に気づき、考えを深めるきっかけにしてもらいたいです。
現在、河川の汚染や地球温暖化などの影響により、ネコギギを含むさまざまな生物が絶滅の危機に瀕(ひん)しています。これは、私たち人間が、自分たちの暮らしを良くしていく過程で起きている問題です。豊かな自然環境と私たちの便利な暮らし。そのどちらかを犠牲にするのではなく、法や制度、技術を発展させることで、その両立を目指すことが大切です。
ネコギギは、その地で長らく生き抜いてきた清流のシンボルとも言える魚。その復活に向けての取り組みは、自然あるいは生物豊かな川の再生にもつながる価値ある挑戦だと考えます。
《lecture》
文化庁 文化財調査官 江戸謙顕さん
▽天然記念物制度を通じた保護意識
ネコギギなどの天然記念物を保護するための法律として、文化財保護法というものがあります。これは、「大事なもの、貴重なものを守りたい」という日本人の気持ちをルール化したものです。天然記念物制度は、単に個体数の少なさではなく、学術的な価値があるかどうかで決定されており、100年以上にわたって国内の多様な自然を保護してきました。
また、この制度は、地域の自然文化の促進や、自然と人との適切な関係づくりにも貢献しています。いなべ市では、行政や専門機関だけでなく、学校や地域などのさまざまな人が、ネコギギの保全に取り組んでいます。まさに、ネコギギを「大事なもの」として保護する意識が醸成されていることがうかがえます。
いなべ市のこうした姿勢や保全活動がなければ、員弁川水系のネコギギは絶滅していたと言えるでしょう。今はまだ、人が手を加えないと個体数が維持できない危険な状況ではあるため、引き続き保全に取り組んでいくことが大切です。
《lecture》
名古屋大学 減災連携研究センター 田代喬さん
▽自然と共生する川づくりを
約20年前に実施した調査により、ネコギギはまっすぐな川ではなく、蛇行した川に多く生息していることが分かりました。流速はおだやかで、川底の石は大きいなど、河川工学の観点からも特徴があります。
現在、河川整備を行う際には「多自然川づくり」が求められています。これは、川が本来有する生物や自然を保全し、地域の暮らしや歴史と共生しながら整備していく取り組みです。
しかしその一方で、近年、日本各地で大水害が多発しており、河川管理で治水の安全度を高めることも求められています。このような状況にあって、川の蛇行した部分をまっすぐにし、川底を掘り下げるという、ある意味で安易な方法が採用されることが多いと感じます。
今必要なのは、河川整備の技術向上に加えて、地域の関心や監視の目を川に向けてもらうことだと考えます。こうした取り組みを続けることによって、郷土の宝を残しながら安全な川を作るという好循環が生まれるのではないでしょうか。
◎\ちょっと一息/どうして「ネコギギ」と名付けられたの?
かつてはギギモドキと呼ばれていましたが、同名の魚が朝鮮半島にいたため、ネコギギと改名されました。「ネコ」の由来については諸説ありますが、韓国に生息する近縁種「ウサギギギ」が、丸くてかわいい見た目から名付けられたことと同じく、かわいいつながりで名付けられたとも言われています。
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