■地域に根差した第一次産業を未来に引き継ぐために
近年の地球温暖化が原因とみられる気候変動の影響は、世界中で深刻な自然災害を引き起こし、日本でもこれまでにない規模の豪雨や大型台風など、異常気象が多発しています。これは大台山系を背後に黒潮を臨む本市においても例外ではありません。
私たちの尾鷲市は、海・山・川の豊かな自然と、温暖多雨な気候によって古くから漁業、林業が栄え、自然の恵みを受けてきました。この美しいふるさとと、地域に根差した第一次産業を、未来に引き継ぐため、市では、令和3年度からパートナー企業や団体とともに、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボンシティ尾鷲」を目指す取り組みをスタートしました。
今月号では、これまでの一連の取り組みを改めて紹介するとともに、今後のねらい・めざす姿などをお伝えします。
■山と海が近い尾鷲だからこそ山の強さを回復する取り組みを
◇はじまりは「みんなの森」
ゼロカーボンシティに向けた取り組みのスタートとなったのは、令和3年にヤフー株式会社(現在は、LINEヤフー株式会社)が募集した「ヤフー地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」に採択された「尾鷲市『みんなの森』プロジェクト」でした。この事業をきっかけに、本市の思いに共感するパートナー企業・団体が集まり、令和4年3月1日、7つの企業・団体とともに「尾鷲市ゼロカーボンシティ宣言」を行い、美しいふるさと尾鷲を100年先へ引き継ぐために官民が連携して取り組むことを宣言しました。
九鬼町にある市有林の「みんなの森」は、海と山の近さや、流域、集落との関係性が分かりやすい立地にあり、山の大切さを伝える絶好の位置にあります。かつての「山の強さ」を、集落だけでなく漁業にも繋がる形で回復させようとしています。
◇生物多様性を育(はぐく)むネイチャーポジティブなまちづくり
また、国際機関では、種の絶滅の速度が早まっており、現在、推定100万種が絶滅の危機にあると警告しています。
本市では、この国際課題に対しても、第一次産業のフィールドで取り組み、付加価値としていくため、令和5年9月22日に、環境省が主体の「生物多様性のための30by30(サーティバイサーティ)アライアンス」(生物多様性の損失を食い止め、回復させる「ネイチャーポジティブ」に向けて、2030年までに陸と海の30%以上を自然環境エリアとして保全するという目標に賛同する連盟)に加盟しました。公益財団法人日本自然保護協会等とともに、生物多様性が育まれる森林整備に取り組んでいます。
◇漁業と林業、そして有機農業のまちをめざして
さらに農業の分野では、農地面積の少ない本市で農家の所得向上を達成し、甘夏や虎の尾に代表される特産品を未来に残すため、今年1月20日に「オーガニックビレッジ宣言」を行い、有機農業の取り組みを推進することを表明しました。
また、2月9日には、里山や田畑といった人と共存する自然を保護し、生物多様性を守る国際的な取り組み「里山イニシアティブ」にも加盟が認められました。
世界的な潮流に呼応したこれらの宣言や加盟は、本市が脱炭素や生物多様性に積極的であることを全国的にPRし、関心の高い企業らの間で知名度を高めることに繋がります。
■尾鷲の第一次産業が生み出す産品に新しい付加価値を
令和3年から始まった本市の一連の取り組みは多くの企業から注目され、「みんなの森」への視察も相次いでいます。今、世界中で気候変動への対策が叫ばれる中、企業は脱炭素や生物多様性にどれだけ取り組んだかを公表することが求められており、多くの企業で各自治体の取り組みに関心が高まっているからです。
農林水産業にまたがるこの一連の取り組みの大きなねらいは、本市特産の尾鷲ヒノキや甘夏、水産物などの一次産品に、「歴史ある産業と、生物多様性やゼロカーボンへの先進的な取り組みの両立から生み出されたもの」という新たな付加価値をつけることです。これにより、価格の上昇や企業活動を呼び込み、各産業の持続可能な仕組みづくりにつなげることで100年先まで本市の農林水産業を受け継ぐことをめざし、挑戦を続けています。
お問い合わせ:水産農林課
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