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市長コラム Vol.146(2024.9.1)

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三重県津市

■能登半島地震の教訓を受援に生かす
津市長 前葉 泰幸

□困難を極めた被災自治体と応援部隊の初動
1月1日、泉谷満寿裕(いずみやますひろ)・珠洲市長は自宅で強烈な揺れを体験し、防災服に着替えている最中に震度6強の本震に襲われました。徒歩で市役所に向かう途中、相当数の人的被害を伴う甚大な被害を目の当たりにした泉谷市長は、陸路での状況把握は困難だと判断し、まず、石川県知事に電話して自衛隊の派遣と上空からの被災情報収集を依頼するとともに、珠洲市民病院の受入態勢を整える準備に入りました。
久居駐屯地の陸上自衛隊第33普通科連隊は、石川県知事の災害派遣要請を受けた第10師団長の指示により、地震発生当日、速やかに初動対処部隊が前進を開始すると同時に、全隊員を呼集し災害派遣態勢を確立しました。当初、珠洲市に向けて前進するようにとの指令を受け穴水町まで入った久居の部隊は、最も輪島市に近い位置まで進んでいたことから輪島市への転進を命ぜられ、2日に現地入りしました。輪島市が被災状況の把握すらままならない状態にあると認識した金子洋幸連隊長は、直ちに自らの部隊に徒歩で孤立集落に入り情報収集活動を開始するよう指示しました。
緊急消防援助隊三重県大隊は地震発生直後から出動準備態勢を取り、10日、消防庁長官の指示を受け輪島市へと出動しましたが、道路損壊による激しい交通渋滞に巻き込まれ、救急体制ひっ迫の報に救急小隊のみ先行させるなど、大型特殊車両の救助・消火小隊の前進に支障を来しました。
大規模災害の発生時、自衛隊、緊急消防援助隊、警察災害派遣隊などの広域応援部隊は被災後12時間をめどに目的地に到達することが想定されています。被災した自治体は到着した応援部隊が直ちに活動を開始できるよう、現地消防を中心に、県警や域内の自衛隊の力を借り全力で被災者の救命救助に当たると同時に、緊急輸送道路の確保と被災情報の収集に努める必要があります。

□受援計画を見直す
平成28年の熊本地震、30年の7月豪雨を受け、津市は平成31年3月に「津市災害時受援計画」を策定しましたが、能登半島地震での教訓を基に、さらに実効性のある計画とするべく、今年度、災害時の受援体制の整備に全庁挙げて取り組む方針を定め、行動を開始しました。

□応援部隊の気づきに学ぶ
まずは、応援部隊が円滑に救援活動を行うために津市がなすべき対応を検討しようと、能登半島の被災地に赴いた消防、警察、自衛隊の実際の活動内容を伺う市職員向け災害対応研修会を4月に実施しました。
現地で指揮を執った3人の研修講師が異口同音に指摘したのは、被災地の災害対策本部と派遣部隊との情報共有の難しさです。
「三重県大隊と他機関の安否情報に齟齬(そご)があった。」(消防)、「警察、消防、自衛隊が同じ場所で安否不明者の捜索に当たるなど活動が重複する場面があった。」(警察)、「被害状況や他県からの支援状況を共有するための災害対策会議の開催が遅れた。」(自衛隊)といった発言からは、現場の状況把握や部隊展開の作戦構築が思うようにできなかったもどかしさが伝わってきました。

□課題山積となった災害対策図上訓練
初動段階で被災自治体が地元防災関係機関と連携し、被害情報を集約し共有する体制を構築してこそ、到着した応援部隊に選別した情報を提供し、効果的な救助活動を要請することが可能になります。
そこで、令和6年度の災害対策図上訓練は、初めて受援体制の構築をテーマに実施し、受援計画修正案の実効性を確認することにしました。
5月に行った訓練の参加者は、津市職員110人と警察、自衛隊、県の関係機関からの12人。これまでは地域防災計画やマニュアルに沿って自らの役割を確認していくものでしたが、今回は依(よ)るべきものがなく、手探りで次の行動を考え、選択し、軌道修正するという、極めて厳しい実践訓練となりました。
想定は南海トラフ地震発生後12時間が経過し津波警報が解除された午前9時から11時までの2時間。土砂崩れや家屋倒壊などによる人命救助要請、道路損壊や落橋、断水の発生と汚水処理の停止、避難所からの救援物資調達依頼、拠点医療機関のライフライン寸断や救護対応が可能な医療機関情報など143件の通報や問い合わせがコントローラー(統制役)から関係各部に間断なく付与され、リエゾン(橋渡し役)からは派遣されてくる応援部隊の状況が刻々と伝えられました。
担当部門は3分から5分おきに入ってくる情報をそれぞれ地図やホワイトボード、災害情報管理システムに落とし込みながら対処しましたが、各部の通報内容の集約方法に統一性を欠き、被災情報の共有が思うに任せぬ状態で訓練開始から30分後のリエゾンとの調整会議に臨むことになり、応援部隊をどこにどう展開するかについての判断ができませんでした。開始1時間半後に招集した災害対策本部会議では、到着した消防、警察、自衛隊の活動区域を津市北部、中部、南部と区分して引き込むことには成功したものの、部隊進行のための道路啓開の状況の把握が不十分で救助活動の方針が立てられるだけの被災情報が提供できたとは言い難い結果となりました。
川口淳・三重大学教授の訓練講評は手厳しいものでした。(1)課題は情報の有効活用。集約した情報の一元的な分析・整理ができておらず、各機関が総合的な判断に使いづらい。(2)救助部隊に対し、「どこに」「どのくらいの規模で」といった具体的な調整ができていなかった。情報が不足し錯綜(さくそう)する中では、予測される被害想定と実情報を重ね合わせながら分析し、見積もる必要がある。(3)本部会議がより機能するために、本部に情報を上げて現状の課題と対応策を立てられるようにすることが重要、との指摘を受けました。

□真に機能する受援計画づくり
図上訓練で明らかになった多くの課題を受援計画に反映させるべく、津市は災害時の具体的な局面における選択肢や判断基準などを詰める作業を進めています。他の自治体の受援計画に参考となる事例は見当たらない革新的な取り組みゆえ、試行錯誤を重ねながらも来月には修正案を固める予定です。
11月に実施する総合防災訓練では、修正内容に従った訓練を実施し、その検証結果を基に新しい津市受援計画を作り上げていきたいと考えています。これまでにない強力な受援体制を構築し、南海トラフ地震や巨大台風・豪雨に備え、全力で災害応急対策を整えてまいります。

ケーブルテレビ123chと津市ホームページでは、前葉市長がこのテーマについて語ります
【HP】津市長コラム 検索

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