■第33回紫式部文学賞受賞者コラム
▽ユーチューブの奇跡
角野 栄子(かどの えいこ)
今年の夏、六十三年間、音信不通だったブラジルの友人に会えた。私にとっては夢の様な出来事だった。当時、彼はブラジルに移住したばかりの私と同じアパートに住んでいた十一歳の少年だった。エレベーターで出会って、言葉のわからない私をなんとか助けたいと思ったのだろう。毎日の様に外につれ出しては、一つ一つ指さして物の名前を教えてくれた。母親が歌手のせいか、足はいつも踊る様に動き、手は身近なものを叩いて、ノリノリ状態で歌う様に言葉を繰り返す。
私も真似して繰り返した。この時、私は言葉の音、リズムが言葉の意味より豊かなものを伝えてくれることを実感した。とても貴重な経験だった。それで私は、作品を書き上げたら、必ず声を出して読むようになった。
帰国後、私は彼のことを書いた本を出版する。それは私の処女作になった。このことを彼に知らせたいと思った。ところが彼の一家はある日突然引っ越してしまった。私は呆然とした。名前はルイジンニョ、でも苗字は知らない。母親の芸名はルーチ・アマラル、これだけでは探す術もない。
心残りのまま、六十二年という月日が過ぎていった。
「ユーチューブで、ルーチ・アマラルという人が歌ってますよ」友人が知らせてくれた。見ると、太った老女が歌っていた。少ししゃがれた声は確かにルーチだ。すると、「ルーチさんを『ママエ』と呼んでいる人がいますよ」とまた知らせてくれた。これは息子のルイジンニョに違いない!そして、たどりたどって、私たちは再会することができた。彼が羽田の到着口から現れた時、私はちょっと混乱した。だって、十一歳の美少年だったルイジンニョがおじいちゃんになっていたのだもの。でも、六十二年はたちまち煙となって飛び去り私たちは駆け寄って、昔の様に強く抱きあった。
■笑顔で健やか宇治のまち
保健師・栄養士が健康づくりに役立つ情報をお届けします
◆オーラルフレイル~おいしく食べて元気に話すために~
オーラルフレイルとは?
加齢に伴う口(オーラル)の虚弱(フレイル)を表す言葉です。口には「噛む」「飲み込む」という食生活にかかわる機能や「話す」「表情を作る」などコミュニケーションをとるための重要な働きがあります。
「かたいものが食べにくくなった」「お茶や汁物でむせる」といった口の不調はありませんか?そのささいな不調は、もしかするとオーラルフレイルかもしれません。
▽オーラルフレイルが進むとどうなるの?
「噛む」「飲み込む」機能が衰えると、食生活の偏りから低栄養を招き、筋肉量が減少し、身体機能を低下させます。一方、「話す」「表情を作る」などの機能が低下すると、他者と積極的に関わることを敬遠し、外出機会の減少などにつながり、ますます心身の機能が衰えていきます。
作図:東京都健康長寿医療センター平野浩彦
▽口の健康=全身の健康
「噛む力」「飲み込む力」「話す力」などの口腔機能を維持・向上することは、全身の健康づくりに直結し、健康寿命を延ばすことにつながります。口の衛生管理に努め、口まわりの筋肉を鍛え、フレイルを予防・改善していきましょう。
▽オーラルフレイル対策
・パタカラ体操
食べ物を口に入れ、のどの奥まで運ぶ一連の動作を鍛えます。
「パ」を8回、「タ」を8回、「カ」を8回、「ラ」を8回各発音8回で1セット、1日2セット行う。
出典:日本歯科医師会ホームページ「オーラルフレイル対策のための口腔体操」
・おすすめ!口を動かすこんな習慣
歌う…お風呂やカラオケ、地域の合唱団などで歌を楽しみましょう。歌うことが口の運動となり、自然と口まわりの筋肉が鍛えられます。
音読する…声を出して本や新聞を読みます。はっきり発音すると唇や舌がよく動くので、継続して行うことで口腔機能の改善につながります。
▽歯科健診を受けましょう
歯周病や口腔機能の低下は、気付かないうちに進行してしまうことが多いです。定期的に歯科健診を受け、口の状態をチェックすることで、虫歯・歯周病の早期発見や口腔機能の低下を未然に防ぐことが出来ます。「具合が悪くなったら治療する」のではなく、「悪くならないようにチェックする」ことが大切です。
問合せ:健康づくり推進課
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