■「矢谷経塚(やたにきょうづか)出土遺物」
夜久野町化石・郷土資料館所蔵
昭和48年、夜久野町板生今西の丘陵裾で、露出している土器の口縁部が偶然発見されました。埋められていたのは口径約15cm、高さ約27cm、一部に黒い光沢のある自然釉(しぜんゆう)がかかる丸底を呈した東播系の須恵器の壺。さらにこの壺の中には銅製の鏡が木製の円板2枚で裏表を保護するように挟まれた状態で収められていました。
鏡は「松藤双雀文鏡(まつふじそうじゃくもんきょう)」と呼ばれる直径約10cmの和鏡で、上部と右側に松、上部の松の間から藤の花を垂下させ、左側に双雀が配置された文様で、中央の鈕は亀の形をしています。その鏡を挟むような形で収められていた木製の円板2枚は直径10cm、厚さ3~4mmの杉板で、両方とも裏表に墨書がされていました。
注目されるのは円板に描かれた墨書です。円板の1枚には中央に「悪霊調伏」、右側に「子九郎女」、左側に「神罰死」の文字のほか梵字や呪符が書かれています。もう1枚の円板には趣旨や願文、施主の名前のほか、「応永」(1394~1428)の年号も記されています。近年、研究が進み、『行法教呪』(陰陽道的な呪術を体系的にまとめた中世の古文書)に照らし合わせると、この円板は病気の「子九郎女」のために「悪霊止」を目的に作られ、埋納された呪符円板であることがわかりました。このような事例は全国でも出土例があり、中世に陰陽道系呪術が浸透していたこともわかってきています。
福知山市では、京都府立大学との地域貢献型特別研究事業の中で資料館内の資料整理を行い、呪符円板に赤外線を照射して写真撮影を行いました。不鮮明な墨書もくっきりと判別できるようになるため、赤外線は墨書の調査には欠かせないツールです。
矢谷経塚出土遺物は中世のまじないの様相と埋納の意図が判明する貴重な資料であり、年代もわかる標識資料として福知山市指定文化財に指定されています。赤外線を照射して撮影した写真も一緒に夜久野町化石・郷土資料館で展示していますので、ぜひともご覧ください。
問合せ:文化・スポーツ振興課
【電話】24-7065【FAX】23-6537
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