~綾部の自然風土で培われた感性~
本市出身の陶芸家、神農巌(しんのういわお)さんが重要無形文化財保持者(人間国宝)に選ばれました。小学校3年生から高校卒業までの約10年を綾部市で過ごし、その後の大学のクラブ活動でのめり込んだ陶芸の世界。人生を変えた出会いや古里への思いなどを穏やかな口調で語ってくれました。
■神農巌さんProfile
昭和32年生まれ。中ノ町三丁目出身。昭和51年、綾部高卒。55年、近畿大学卒。56年、京都市工業試験場窯業本科修了。57年、府立陶工職業訓練校成形科卒。58年、京都市工業試験場窯業専攻科修了後、京都清水焼窯元で修業。62年、大津市に築窯し独立。日本伝統工芸展で優秀賞を2度受賞するなど高い評価を得て、平成24年、紫綬褒章受章。25年、滋賀県指定無形文化財「青磁」保持者指定。令和6年、重要無形文化財保持者(人間国宝)認定。
◆青磁に衝撃。この道で行こう!
◇高校時代は油絵も
「小学生の頃は、由良川や藤山(寺山)、大本神苑の森でよく遊んでいた」。綾部の豊かな自然の中で育った神農さんは、少年時代から絵を描くことが好きで「図画工作の通信簿はいつも5だった」と当時を振り返ります。
高校2年生で、中学生から続けていたバレーボールをやめ、美術部へ入部。顧問の先生に指導してもらいながらも、ほぼ独学で油絵を描いていました。その頃は、ただ漠然と「美術に関することがしたい」と思っていました。
◇20歳で陶芸を志す
高校卒業後は近畿大学に進学。「経営学の講義に身が入らない中、門をたたいたのが大学の陶芸部だった。きっかけは入学前の春休みに出掛けた一人旅。旧中山道の馬籠(岐阜県中津川市)で、偶然同宿になったのが部の先輩たちだった。あの出会いがなければ、今の私はない」と感慨深げに話してくれました。
陶芸にはすぐに夢中になりました。「初めて土を触り一瞬で魅了された」とクラブ活動に没頭。合宿で訪れた焼き物の産地ののどかな環境にも引かれ「ゆったりとした時間の中で仕事ができたら…」と思うようになっていったそうです。そんな折、京都市の博物館で巡り合った「青磁(せいじ)」。色と造形美に衝撃を受けました。「作ってみたい。この道でいこう」。20歳の決意でした。
◇新たな技法を考案
大学を出た後は、試験場や訓練校で本格的に陶芸を学びます。「博物館の青磁をまねて作り、展示品と見比べる。何回も繰り返したが、本物には近付けなかった」と苦悩の日々を送る中、模倣や再現ではなく「自分なりの青磁を焼こう」と気持ちを切り替えました。
試験場や訓練校を経た後は、製陶所で5年間修業し30歳で独立。独自の表現を追い求め、泥状の磁土(じど)を筆で塗り重ね、器に線文を浮かび上がらせる「堆磁(ついじ)」という技法を生み出しました。青磁の表現に新たな可能性を開いたとして高い評価を得ています。
◆郷土や関わってくれた全ての人に感謝
◇夢は世界との交流
「まさか、と思った」。文化庁から人間国宝の一報を電話で聞いたときの率直な心境を口にし「重責を感じている」と続けます。夢は、自分の青磁を中国大陸や朝鮮半島に発信し、世界の人と交流すること。技術の伝承に取り組むとしつつも、眼差しは常に制作活動に向いています。
「私の感性は綾部の美しい自然の中で培われた。郷土や関わってくれた全ての人に感謝している」。インタビューの最後、顔をほころばせながら古里へメッセージを送りました。
■陶磁器2点を展示中
神農さんの人間国宝認定を記念し、市が平成23年10月に寄贈を受け所蔵している陶磁器2点を一般公開しています。
期間:9月30日(月)まで
場所:あやべ・日東精工アリーナ(市民センター、西町三丁目)
時間:施設開館中
・白磁堆磁線文鉢(はくじついじせんもんばち)
・青白磁堆磁線文壺(せいはくじついじせんもんつぼ)
(※詳細は本紙をご参照ください。)
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