◆第4章 地域と共に「暮らす」
◇地域に溶け込み 互いに支える
今後、外国人が増えていく地域社会で、共に助け合いながら暮らしていくために、私たちは外国人とどう向き合っていくべきでしょうか。外国人と関わりのある地域では、すでに彼らが周囲に溶け込んでいる姿を見ることができました。
・学生たちの期待に応える
佐用日本語学校がある久崎地域の「久崎地域づくり協議会」は、学校と地域がお互いが協力しあえる関係を築こうと開校当初から取り組んでいます。
初めは交流する機会が少なく、両者の距離はなかなか縮まらなかったようです。しかし、同協議会の芳原清和会長が「交流するたびに、学生たちが、勉強のために、もっと日本人と話したいと思っている」と感じ、学生が地域の人と交流できるように、行事などの参加へ積極的に声かけをするようになり、そこから徐々に深い関係を築いています。
・佐用町で良い思い出作りを
今年の夏に開催された「高瀬舟まつり」では、母国のお菓子を販売したり、民族衣装を紹介したりしながら地域の人と交流をした日本語学校の学生。芳原会長は「せっかく佐用町で生活するんだから、佐用町の人とたくさん交流して、良い思い出をたくさん作ってほしい」と笑顔で話しました。
◇集落の一員として自然体で接する
・秀谷自治会長 尾﨑 裕章さん
(株)グローリーの社員寮に住む外国人と関係が深くなったのは、平成21年の災害以降です。災害の時に、寮が浸水した外国人に集会所へ避難してもらい、地域の人と2日間避難生活を送ってからぐっと距離が近くなりました。
それからは、公園の清掃、祭りののぼり立て、防災訓練などにも参加してくれています。秀谷集落は、高齢化が進み、若い人がいないのでとても助かっています。ほかにも、一緒に旅行に行ったりするなど、集落の一員として溶け込んでくれていて、地域のみんなも自然体で接しています。
◇素直でまじめな学生が不安を払拭(ふっしょく)
・真盛自治会 髙見 省二さん 髙見 俊男さん
去年の春から、集落内の空き家が日本語学校の寮となり、10人程が生活をしています。正直、初めのうちは、言葉が通じず、文化の違う人が近くで生活することに不安はありました。しかし、交流してみると、日ごろからあいさつをよくしてくれるし、予想以上に日本語を上手に話すし、素直でまじめな性格であることもわかったので、不安はすぐになくなりました。
秋になると、集落で生産している丹波黒枝豆の収穫を手伝ってくれていて、若く体力のある学生たちは大きな戦力になっています。
◇地域のみんながまるで家族のよう
・シャザド・クロムさん一家
妻の母が15年前に佐用町に移住していたことがきっかけで、私たちも3年前に宮崎から移住しました。ここに来てからも2人の子どもに恵まれて、家族8人で暮らしています。
移住したときは、見知らぬ土地での生活に不安はありました。しかし、この地域では、みんながみんなのことを知っていて、まるで家族のように支え合って暮らしている場所だと知りました。そのおかげで私たちもすぐに周りと打ち解けることができ、子どもたちも保育園や小学校でたくさんの友だちができて楽しく生活しています。
◆第5章 佐用から世界へ羽ばたく
◇私たちができること
佐用町に住む多くの外国人は、地域に馴染(なじ)み、佐用町民の一人として活躍していることがわかりました。この先、外国人にとっても、日本人にとっても「共に暮らし、支え合う」明るい未来のために、私たちには何ができるのでしょうか。
・53カ国200人と交流
佐用町では、平成11年に旧上月町で設立した「佐用町国際交流協会」が、町民の国際理解を深める取り組みをしています。
協会では、ホームステイ事業を、家の縁側を「えんげ」という佐用町の方言を使って『いなかのえんげ』と名付け、「普段通りの田舎らしい佐用町を過ごしてほしい」と願いをこめて活動してきました。これまでに53カ国約200人の留学生を受け入れ、国際交流を続けています。
そのほか、佐用町に住む外国人に日本語を教える「日本語教室」を開催しており、同協会の中井達也会長は「外国人が日本文化に慣れることで、日本人との距離が縮まればと思い活動しています」と、町民と外国人との架け橋となっています。
・国際理解のその先へ
町内の外国人の人口が増え、今後ますます国際化していくことが予測されるなか、中井会長は「町民が外国人と交流できる機会を増やすことで、お互いの文化を知ることができ、国際理解を深めることができる。そうすることで、佐用町で共に暮らしやすい地域社会や、若い世代が世界に目を向け、大きく羽ばたくことができる。私たちの活動はその下地作りです」と国際理解がもたらす未来への希望を語りました。
◇保育園で異文化交流
上月保育園では、トルコ人とパキスタン人を父に持つ園児が在籍している縁から、世界の文化を知るための公開保育を11月10日に実施しました。
園児たちは、トルコやパキスタンの工芸品などの展示のほか、食文化を知るために「お店屋さんごっこ」などでお互いの文化を学びました。
上月保育園の藤木裕華園長は「普段から子どもたちは仲良くしているが、この保育を通して、さらに距離が縮まった。これからも視野を広く持てる子どもが育つように取り組んでいきたい」と園児たちの国際理解への手応えを感じていました。
「佐用(このまち)が私たちの古里(ふるさと)です」
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