「またやられてもた」
丹精を込めて作った米や野菜、果物などが収穫前に野生動物に食べられ多くの生産者が悔しい思いをしています。最近まで人里に現れることが少なかった野生動物は、地球温暖化や人工林の管理不足、狩猟者の減少などが原因で増加しています。その結果、山の中のエサが少なくなり、野生動物は私たちの生活エリアにまで侵食し、農林産業に被害をもたらしています。
今号では、農家にとって深刻な問題である『獣害』に向き合います。
◆被害は農作物だけにとどまらない
獣害がもたらす『負のサイクル』
獣害は農作物に大きな被害を与え、農家にとって大きな課題になっています。その影響がもたらす他への影響とはー。
◇計り知れない獣害の影響
近年、全国的に野生動物による農作物の被害が深刻化しています。面積の8割以上が山林に囲まれる佐用町では、令和4年度に農業共済へ届出があったものだけでも額に換算して約800万円に上り、農家に大きな損害を与えました。さらに、把握ができていない家庭菜園なども含めると、『獣害』の影響範囲は計り知れません。
農作物に被害を与える野生動物は、主にシカやイノシシが知られていますが、他にもサルやアナグマ、ハクビシン、カラスなどさまざまな動物がいます。獣害から田や畑を守るためには、防護柵や電気柵の設置に費用がかさむことはもちろん、定期的な管理をする手間もかかります。
◇獣害で人口減少⁉
獣害によって、営農意欲が低下し、農業を辞めてしまう人が増加すると、耕作放棄地が増加します。そして、その放棄地が獣たちのすみかとなり、また獣害が拡大する。せっかく手間ひまかけて育てた農作物が被害に遭い、収益が上がらなければ、後継者や新規就農者が減少し、さらなる人口減少を招くことにつながりかねません。
獣害には、こうした『負のサイクル』のリスクもあるため、農家や猟師、研究者、行政がともに手を取り合い、真剣に取り組んでいかなければならない深刻な問題となっています。
●被害者の声
・サルの獣害範囲が拡大しています
桑野集落では、一昨年前ごろからサルによる農作物被害がでてきています。対策をするには、サル専用の電気柵を設置する必要があります。町の補助金はあるのですが、どうしても実費がかかるため、農業を辞めてしまった人もいます。これ以上被害範囲が広がらなければよいのですが…。
(桑野自治会長 柴田 義美さん)
・クマに襲われ もうダメかと思った
健康づくりのために日課となっていた朝の散歩中、突如現れたクマに襲われました。怖くなって逃げられずにいると、爪でかぐられ、腕を噛まれて骨折する大けがを負いました。襲われたときはもうダメかと思いました。毎日鈴を持っていたのですが、思い返せば近くに子どものクマもいたので、母クマも必死だったのでしょう。
(下石井在住 Aさん)
◆集落で取り組む獣害対策
みんなで守る
獣害に苦しむ仁方集落が、獣害対策のモデル地域に手をあげました。個人ではなく集落全体で取り組んできた成果は―。
◇立ち上がった仁方集落
令和3年に実施した江川地域づくり協議会の振り返り(=みん活)の中で、「耕作放棄地をなんとかしたい」、そのためには「獣害をなんとかしなければ」という意見が多くありました。そこで、県と町のサポートを受けながら獣害対策に取り組む自治会を募ったところ、仁方集落が引き受けることになりました。
◇防護柵や電気柵の強化
深刻な獣害を少しでも減らせないかという思いで取り組んだ同集落。兵庫県立大学の山端(やまばた)直人教授を迎えて勉強会を行い、これまで個人で行っていた獣害対策に加えて、集落全体で協力をしながら農地を守る取り組みを始めました。そこで、まずは集落を囲っていた山際の防護柵の点検を、田植え時期に加えて、お盆前にも行いました。また、個々の田んぼに張り巡らせている電気柵が、より効果を発揮するように、電気柵の高さや電圧のチェックを行いました。
他にも、旧江川小学校に開校した「JUAVAC(ジュアバック)ドローンエキスパートアカデミー兵庫校」の協力により、赤外線カメラを搭載したドローンで、有害獣がどこから集落に進入しているかを突き止め、対象箇所に防護柵の強化を実施しました。
◇次は「攻め」の対策へ
このような取り組みを集落全体で行ってきた仁方集落のみなさんは「今年は田んぼが守れた」と口をそろえます。
同集落では、『終わらない獣との闘い』に向け、獣害柵などを点検する「守る」対策だけではなく、有害獣を捕獲する「攻め」の対策も積極的に行っています。
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