感性豊かな人・まちづくりをめざして
■教科書の話
▽小学校の新一年生に配布する教科書袋
入学と進級の四月、新年度の始まりです。学校では真新しい教科書が配布されます。小学一年生の場合、教科書は特別に袋に入れて渡されます。左画像がその袋です。ノスタルジックなイラストで、色は全面ピンク一色です。この袋は文部科学省が作成しており、全国の小学校に配布しています。
※画像は広報紙22ページをご覧ください。
袋の裏面には次の文言が記されています。
《保護者の皆様へ》
お子様の御入学おめでとうございます。
この教科書は、義務教育の児童・生徒に対し、国が無償で配布しているものです。
この教科書の無償給与制度は、憲法に掲げる義務教育無償の精神をより広く実現するものとして、次代を担う子供たちに対し、我が国の繁栄と福祉に貢献してほしいという国民全体の願いを込めて、その負担によって実施されております。
一年生として初めて教科書を手にする機会に、この制度に込められた意義と願いをお子様にお伝えになり、教科書を大切に使うよう御指導いただければ幸いです。
文部科学省
数年前にSNS上でこの配布袋のことが話題になりました。新入生の保護者がこの袋をネット投稿したのがきっかけです。「文科省の文言が恩着せがましい」「無償配布は当たり前じゃないか」「イラストが古臭い。昭和の世界だ」等、多くの批判的な意見が飛び交いました。
批判内容はもっともなことですが、無償配布となるには次の経緯があります。
▽無償配布は昭和38年から
昭和38(1963)年、小学校一年生に教科書が初めて無償配布されました。現在67歳の方が小学校入学した時のことです。その後無償配布の対象は毎年拡大され、昭和44年に小中学校全学年への配布となりました。
それまでは保護者が教科書を購入していました。教科書には「60円」のように価格が記されていました。学年の教科書をすべてそろえると小学校では約七〇〇円、中学校では約一二〇〇円の出費でした。たいした値段ではないように思いますが、今とは貨幣価値が違います。日雇い労働者の日当が三〇〇円の時代です。今よりも兄弟姉妹の数も多く、保護者の負担は大きいものでした。
日本国憲法第26条には「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育はこれを無償とする」とあります。
この条文に注目し、無償化の運動を始めたのが、高知県高知市の小さな漁村でした。半漁半農の村の貧しい保護者たちが運動を起こしたのです。それが高知市を動かし、さらに全国に広がり、無償配布の法律制定に至ったのでした。
それ以来、教科書費用は国が負担しています。これは官が主導したのでなく、民衆の力によって実現した制度です。
▽授業料徴収の時代も
昭和38年よりも前の教科書が有料だった時代、憲法の条文「義務教育は無償」の内容は、「義務教育の授業料が無償」であることを指していました。
かつては小学生でも、今の大学のように授業料が必要でした。授業料が無償になったのは1900(明治33)年以降です。これ以降就学率が上昇し、義務教育の一〇〇%就学へと向かっていったのでした。
▽今年も配布
無償化までの経緯を知るなら、配布袋に記された文言が深く心にしみてきます。古臭く見えるイラストも、逆に歴史の重みを語るようです。この配布袋は、昭和41年から用いられています。今年も全国のピカピカの一年生に配布されます。
市川町の小学校入学式は4月9日です。入学式当日、一年生教室の一人一人の机上には袋に入った教科書が置いてあります。
問合せ:生涯学習課人権教育啓発係
【電話】26-0001
<この記事についてアンケートにご協力ください。>