■ヒカゲノカズラ(ヒカゲノカズラ科)
山々は下草が生えない林床が続いていますが、時折、緑色の紐状植物が黒土の表面を這っているのを見かけます。これは常緑性シダ、ヒカゲノカズラ(日陰の葛)です。近年の報道で、4.2億年前の体制を保持する「生きた化石」であり、世界最古の植物であることが報告されたそうです。国内では北海道から九州にかけての日当たりの良い山麓に生えるとされていますが、日陰にも多く見られます。名前は蔓(かずら)となっていますが、他に巻きつくことなく、地を這って分枝を繰り返し、地表に広がります。葉は線形で杉の葉のような付き方で葉の縁は全縁(ギザギザがない)、主軸の葉は荒く、側枝の葉は少し密に出て、分枝は2、3回ほど。7月頃長い柄を直立、高さ3~5cmの棒状の胞子嚢群をつけます。胞子は石松子(セキショウシ)と呼ばれ吸湿性が無い粉で、丸薬の衣やリンゴの人口授粉の際の花粉の増量剤として使われているとか。
また、常緑性で切り取った後も緑を保つことから永遠の命を表すとされ、古(いにしえ)より神事に使われてきたことが古事記などに記されています。天岩戸に隠れた天照大神を誘い出すために岩戸の前で踊ったアメノウズメノミコトが身にまとっていたのがヒカゲノカズラだったことは有名な話です。現在でも神事で巫女が髪飾りにしたり、神酒に添えられたり、正月のしめ縄に用いたりなど、ヒカゲノカズラを用いる行事が日本各地で行われているようです。聞くところによれば、寿司店のネタ棚にも飾られているとか。現在も愛され続けるヒカゲノカズラです。
文・写真 中澤博子さん
(※写真は本紙をご覧ください。)
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