■エンレイソウ(シュロソウ科)
待ち遠しかった春の到来です。道端の草花も愛おしく感じますが、少し奥まった山辺の芽吹きも見たくなる季節です。最近は鹿の食害でほとんどの草は消えてしまいましたが、春先だけは食害前の綺麗な姿が見られることもあります。半日か一日、少しだけでも奥深い山へ出かけて、いろいろな草の芽吹きに触れて、数日間余韻(よいん)に浸ったりするのも春の楽しみです。
エンレイソウ(延齢草)は姿が特異でよく目にとまる春先の深山植物です。以前はユリ科に分類されていましたが、現在はシュロソウ科となっています。属名のトリリアムのトリはラテン語の3で、直訳すると「3からなるユリ」となるそうです。
冬期は地上部を枯らすエンレイソウは春先に高さ20~40cmの草質の茎を伸ばし、茎先に3枚の葉を広げます。葉には柄が無く、茎から直接葉を広げ、基部が菱形、先が急に尖る卵型形状で、直径、幅とも6~17cmの葉は3枚、4月頃葉の中心から短い柄を出して緑色か褐色の花を1輪、横向きにつけます。花弁も3枚ですが、これは萼(がく)なので花後も付いたままです。雄しべ雌しべはその内側の子房(しほう)にあり、子房は6月頃に黒熟し、直径1.5cmほどの丸い果実となります。内部には直径2.2mmの小さな種がたくさん入っています。
延齢草の名前は本種の根茎を煎じたものを漢方の胃腸薬として用いたことが語源となっているそうで、中国では現在も民間薬として利用されているそうですが、全草にサポニンという有毒成分が含まれているので、多用にはご注意とのことです。
文・写真 中澤博子さん
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