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〔コラム〕忠臣蔵の散歩道(57)

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兵庫県赤穂市

■忠臣蔵と立版古(たてばんこ)
江戸時代から人気の高い「忠臣蔵」の物語は、歌舞伎芝居や読み物だけでなく、双六(すごろく)やカルタなど玩具の題材として、遊びの中でも親しまれています。特に、全十一段の筋の展開や登場人物の設定と各段ごとの見せ場がある仮名手本忠臣蔵は、錦絵の多様性を生み出しました。
立版古は、錦絵の中の「おもちゃ絵」の一つとして楽しまれ、錦絵版画に裏打ちして補強し、空白のないほどぎっしり描かれた絵柄に沿って切り抜き、のりしろに糊をつけて立体的な舞台に組み立てて遊ぶ「組み上げ絵」とも呼ばれています。人物や建物、樹木などのパーツの横についている名称、数字や記号を参考にして糊で貼り合わせて台紙の上に組み上げます。『出来上がりの図』がさり気なく添えられていますが、詳細な説明書が無く、作者の想像力と創造力そして完成への忍耐力が必要とされます。熱中して、手元で出現する小さな世界は非常に楽しいものです。忠臣蔵に関する立版古は、各段のいろいろな場面があり種類も多く、人気の高さがうかがえます。
塩冶判官(えんやはんがん)が高師直(こうのもろのう)に斬りかかるのを加古川本蔵(ほんぞう)が留めるおなじみの場面をテーマにした「忠臣蔵三段目殿中刃傷(にんじょう)の場組上四枚続」(東京浅草・牧金版)は、歌舞伎舞台を意識した凝った作りで、版木36枚にて摺りあげた大作です。四枚続きの一枚目に額縁囲いの出来上がり図があり、仕上がり寸法が書かれています。舞台は間口二尺五寸奥行壱尺五寸、そして台ノ高サ奥ニテ三寸上リ(傾斜角度約10度)の勾配をつけて奥行きを表現します。主要人物の似顔絵の横に俳優名の合せ名札があり、五代目中村芝翫(しかん)の塩冶判官、七代目市川八百蔵(やおぞう)の「高野師直」、二代目市川猿之助の加古川本蔵、中村翫太郎(かんたろう)の鷺坂伴内(さぎさかばんない)が描かれています。出来上がりの図の右下には『たゝみの草色の紙へ張る』と書き添えられています。まず最初に「青畳」の舞台を作者の工夫で作ります。上手には、奥に続く畳と格天井の大広間、そして下手には廊下の向こうに多くの桜が咲いている庭があります。舞台前面の登場人物は、身を守る師直の右腕、刀を振りかざす判官の右腕、羽交い締めに留める本蔵の左腕、慌てふためく伴内の右腕はそれぞれ取り付けるパーツになっていて、必死の形相や驚きを誇張させて臨場感を高めています。足元には顔世(かおよ)御前からの短冊の入った文箱(ふばこ)があり、大広間の奥には、多くの大名たちが慌てている様子が見られます。殿中の内部の欄間(らんま)、障子、格(ごう)天井など大広間の奥行きを演出して、式日のおめでたい「牡丹に蝶図」の襖絵を始め、勾配に合わせて設計された衝立(ついたて)「日の出に松鷹(まつたか)図屏風」は、金具細工を施した額や台まで立体的な作りに感心します。また、一枚の紙を無駄なく使い、人物、建物、石灯籠(とうろう)、樹木など風景に至るまで紙の縦横や余白など関係なく緻密にレイアウトされたデザイン、遠方を小さく狭く、手前を大きく広くした遠近法を取り入れた立体的なスケール感や細部にまでこだわりのある舞台構成は見事な出来栄えです。
立版古の面白さは、その「単純さに反しての視覚効果」や「誇張されたパーツ」といった不思議さにもあります。そして、組み立てられないままの錦絵のもつ「パーツ配置やデザイン」の独特のグラフィックを眺めるのも立版古の大きな楽しみの一つです。
赤穂市立歴史博物館所蔵の「大新板忠臣蔵十二段切組無類大灯籠絵」大判錦絵十四枚揃は、大序(だいじょ)から討入りまでの全段の名場面を巧みに配置した「忠臣蔵の大パノラマ」の世界を組み立てることができます。いつか挑戦してみたいものです。
(吉徳顧問 青木(あおき)勝(まさる))

※6月号は(55)となっておりましたが正しくは(56)でした。
お詫びして訂正いたします。

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