◇妹背牛牧場データ R6.1現在
経営面積(ha)
乳用牛の飼育頭数(頭)
■牛ファーストの酪農経営
町内で唯一、酪農経営に取り組む「妹背牛牧場」(町内4区)は、牛にストレスを与えることなく、良好な健康状態を保つことで生産性の向上を実現しています。
経営者の佐々木亮太さん(41)は、人間が牛を飼う経済動物としての概念を捨て、牛との信頼関係を最優先にする「牛ファースト」の経営に取り組んでいます。その結果、乳量が増え、乳質も改善。引退するまでの分娩回数も全道平均を上回り、牧場経営の強みとして数字に表れています。
30歳で脱サラした当時の佐々木さんは、酪農の素人でした。一から学び始めると、すぐに違和感を覚えました。
「牛が物のように扱われている…。人間によるストレスが、乳牛のパフォーマンスを下げているのではないか」
そう考えた佐々木さんは、人間と牛の違いを比較します。「足が4本、胃が4つ、言葉が通じない。違いはそれぐらい」。牛が能力を発揮するためには健康が基本にあり、人間と同じように快適に暮らせる環境に着目。牛との距離を縮める接し方を模索しました。
「酪農は牛へのサービス業」。2017年、義父から経営移譲を受けた佐々木さんは、酪農家としての答えを導きます。動物を大切にするアニマルウェルフェアは、大学の教授がセミナーのテーマに据えるなどの評判を呼び、道内外の酪農関係者が妹背牛牧場の視察に訪れています。
◇アニマルウェルフェア(動物福祉)って?
家畜を快適な環境下で飼育すること。ストレスや疾病を減らすことが結果的に生産性の向上、安全な畜産物の生産にもつながることから、農林水産省がアニマルウェルフェアの考え方を踏まえた飼育管理の普及に努めています。
■人懐っこい〝あの子〞!ニックネームは1頭ずつ!
妹背牛牧場で暮らす牛たちは「モ〜、モ〜」と鳴くことはありません。人間を見ても安心しているため、人懐っこい性格で近寄ってきます。
佐々木さんは「牛が鳴かないのは、のびのびとした生活の中で不満やストレスがないからです」と、その理由を説明します。
近寄ってくる牛を観察すると、まつ毛が長かったり、鼻が大きかったり、一頭一頭の表情が違います。
「この子はお尻がムチムチで産まれたから〝ムッチー〞。こっちの子は髪の毛が長いから〝モフモフ〞、あっちの子は耳が小さいから〝コミミ〞」
一頭一頭にニックネームをつけることも、牛と同じ目線で接する方法の一つ。以前、牛に愛称をつけたら乳量が伸びたというテレビ番組を見た佐々木さんは「話題にしたら、みんなは信じませんでした。でも、愛称をつけることはかわいがるということだから、注意深く観察する。異変に早く気づけるので、結果的に乳量が伸びるんです」と、熱っぽく語ります。
「牛は自分を映す鏡」。人間から受けた優しさを牛たちが返してくれると、佐々木さんは言い切ります。
人間との信頼関係を築くのに最も重要な時期が生後90日までの哺乳期です。人間に例えると、3歳になるこの時期は特に子牛をかわいがります。
話しかけることで人間の声に怯えなくなり、体をなでることで手の温かさやにおいを覚えてもらいます。たっぷりと愛情をかけて人間が怖い生き物ではないことを教え、人との関りによるストレスを極力減らします。将来的に7、800キロの巨体になることから、子牛のうちにダメなことを叱ります。
3リットルのミルクを15分程度かけて飲む「ちびちび哺乳」は消化不良を防ぎ、子牛を健康的に成長させます。離乳後の牧草は「一番草」と夏に収穫するやわらかい「二番草」を与えて、好みの方を食べてもらいます。牛は柵につながず、牛舎内を自由に歩き回れるように飼育しています。佐々木さんは「牛が暮らしやすいようにお世話をするのは、酪農家にとって当たり前のこと。難しいことは何一つしていません」と、話します。
・カメラを近づけると、柵から顔を出して近寄ってくる牛たち。
食事中も嫌がることなく、ご飯を食べて眠くなっている時も人間を警戒している様子はありません。
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