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特集 ― 家畜 !? いいえ、家族です 妹背牛牧場の「アニマルウェルフェア」(2)

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北海道妹背牛町

■牛も人も楽になるロボット!
◇反すう時間で、個体ごとの体調チェック!
妹背牛牧場は2011年にエサ寄せロボット、14年には自動搾乳ロボットを導入し、それぞれ24時間・365日の稼働で労力の軽減に努めています。
ロボットの導入は人間の仕事を減らすことだけではなく、牛の健康管理や乳量増加の観点からも好循環が生まれます。
搾乳ロボットは空知管内で妹背牛牧場が唯一導入しており、効率的・省力的な酪農経営の先駆けとなっています。

※反すう→飲み込んだ食べ物を口の中に戻して咀嚼(そしゃく)すること。
微生物の働きを活発にして胃や腸内環境を整えます。

◇自動搾ロボット
搾乳について、佐々木さんは「1日に2回の搾乳と決めているのは、人間の都合です。無理に搾乳することもありません。能力の高い牛は1日に5回も搾乳します」。搾乳の回数やタイミングは牛に合わせることで、ストレスや病気が減り、牛の能力を最大限に発揮できる環境を整えます。
機械に慣れてきたら、乳の張った牛たちが自ら搾乳ロボットのゲートに入り、その後ろに列をつくることもあります。
搾乳時に体重や体温を把握できるほか、牛の首についたタグで反すう時間や活動量をリアルタイムで計測。個体ごとにパソコンで管理し、健康状態を確認しています。
異常があれば携帯電話にアラームで通知。病気の早期発見・早期治療につながり、獣医師の対応や治療など予期せぬ作業が減り、従業員の労力をさらに削減できました。

◇エサ寄せロボット
エサ寄せロボットは、牛がいつでもエサを食べられるよう牛舎内を往復し、柵から顔を出す牛にエサを近づけます。少しの衝撃で緊急停止するため、誤って牛とぶつかっても安全です。
24時間体制で1時間に1回稼働します。特に活躍するのが、暑さで食欲が落ちてしまう夏場。日中に食べられなくなった分、涼しくなる夕方や夜にエサを食べる牛の食事を支えます。
腸と肝臓の健康に気を配り、エサに乳酸菌を配合。腸内環境を整え、自己免疫力が高まると、乳房炎は6、7割減りました。

◇人の場合
牛が食事に夢中になっていると、柵の近くにあるエサが顔から離れていきます。スコップで近づける人間の労力には限界があり、エサ寄せロボットが活躍します。

■酪農家になるまで
美唄市出身の佐々木さんは滝川西高校を卒業後、旧妹背牛町農協(現・北いぶき農協)に就職。結婚後、妻・牧子さんの父が経営していた妹背牛牧場を引き継ぐ形で独立しました。
2017年に経営移譲。農業用資材を販売していた経験から「商品やサービスを売るときも信頼関係が大切。親身になって牛たちと接し、快適に過ごしてもらえれば、結果は後からついてくる」と、未経験からの挑戦が始まりました。
その結果、身構えることなくアニマルウェルフェアを実践する数少ない酪農家に。
「牛の命と向き合う酪農の仕事は、私の人生観を変えてくれました」

■牧子さんのお話
最初は酪農を職業にするとは思っていなかったです。子どものころから働き詰めの両親を見てて、家族旅行にも行けなかったので…。牛はかわいくて好きですよ。でも、職業にするのは違うなぁって。
夫は一度やると決めたら、揺るがないタイプ。当時、私たちの子どもはまだ小さかったので、この子たちを支えていくには、やるしかなかったんです。
保育園の園児たちが牧場見学で遊びに来てくれることがうれしいです。牛にエサをあげる時に手まで舐められると、園児たちは大喜び。今では、牛とのふれ合いを楽しんでもらうことも酪農の魅力ですね。

■アニマルウェルフェアは、世界的な潮流ながら国内で浸透しきれていないのが現状です
。酪農の素人が牛たちとどう向き合えば良いのか。真剣に考え抜いた佐々木さんは、自然とアニマルウェルフェアの道にたどり着きました。
「アニマルウェルフェアという言葉は本来、必要ありません」。佐々木さんがこのカタカナを知ったのは、妹背牛牧場の取り組みがテレビや雑誌、SNSなどで評判を呼び、視察に訪れた人たちの発言からでした。
「酪農家にとって当たり前のこと。牛の健康に気を配れば、乳量は増えます」。佐々木さんが牛と同じ目線で接すると、牛たちも乳量で応えてくれます。
年間個体乳量は全道平均の9800キロを大きく上回り、昨年は13900キロを記録。国内に年間5、60頭しか出ないとされる、総生産乳量が2万キロを誇る「スーパーカウ」も誕生しました。牛の引退するまでの平均出産回数は4・6と、こちらも全道平均の3・0を上回る実績を上げています。
今後の目標は、牛の疾病ゼロ、出産を繰り返しながら長生きする「長命連産」の実現で平均出産回数を5・5に伸ばすことです。
「牛たちが生きている間は幸せに過ごしてもらいたい。一滴でも多く、おいしい牛乳を食卓に」
それが、牛に愛情を注ぐ酪農家の願いです。

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