〝台湾の大手企業が旧北星小学校に来る〟。そんな話題が町内に流れている。「漢方薬や健康食品を製造する会社らしい」「順天堂って、日本にも同じ会社があるが」「台湾ではかなり大きな会社らしい」…。噂が飛び交う中、10月23日に役場講堂において、話題の企業との「旧北星小学校使用貸借契約締結式」が行われた。順天堂とは?契約の内容は?何を製造するのか?今回はそのすべてを皆さんにお伝えしたい。
■順天堂薬厰(順天堂製薬)とは?
今回、当麻町が貸借契約したのは株式会社Kanoco(カノコ)。台湾の順天堂と、大阪府にある株式会社ハイサム技研、愛知県にあるKIYOMIZU GLOBAL BUSINESS株式会社の3社が設立した日本の企業だ。順天堂本社は台湾新北市にあり、海外のホームページによると資本金は4億4100万元(1元=4.6円で計算すると20億2860万円)というから台湾最大手の漢方医薬品メーカーというのは過言ではないようだ。1946年に設立。販売網は世界26カ国に渡り、2018年には日本合同会社を設立。国内に漢方製品やペット用健康食品を提供している。
■当麻で何をするのか?
当麻ではエゾシカの角を漢方健康食品として有効活用する事業を進めるらしい。エゾシカは農作物を食い荒らすなど被害をもたらすことから、北海道では「エゾシカ対策推進条例」に基づき捕獲などによる個体数の管理などを計画的に進めている。そんな〝厄介者〟のエゾシカだが、中国では「宝獣」と呼ばれ、漢方医学の観点では体の20以上の部位が薬用資源として利用できると言われている。日本でも袋角(皮膚をかぶって柔らかな状態の角)を活用した漢方が使われているが、台湾では枯角(皮膚がはがれ角芯がむき出しになった角)においても同様に活用されている。その角は身体を温める作用があり、子どもの発育を助けたり、筋肉や骨を丈夫にする作用があるという。また不妊症への効果も高いと言われている。
■エゾシカの角はどこから調達するのか?
捕獲したエゾシカについては、さまざまな地域で有効活用の動きがある。23日の締結式には協力会社として、「合同会社EZOPRODUCT」と「合同会社MID」の代表者も同席していた。EZOPRODUCTはエゾシカの皮を使用したレザー商品の開発販売を進めている。代表自身がハンターであるMIDは食肉用を始めペットフードの原料としてエゾ鹿を狩猟している。この2社が持つルートなどを活用しネットワークを広げ、エゾシカの角を調達する計画だ。
■なぜ無償で貸し付けるのか?
貸借契約では、町が所有する旧北星小学校(グラウンド、体育館を除く)をカノコに無償で貸し付けるという内容になっている。無償で貸す理由は「老朽化が進む旧北星小学校を自費で改修し活用する」というところにある。
昭和44年に建築された旧北星小学校は50年以上経過していることから建物の劣化が進んでいる。また大きい校舎は維持管理など経費の問題で、大きな企業でなければ借用することは難しい。現にこれまで何度か借用の話があったが実現には至らなかった。このまま利用者がおらず、老朽化が進めば将来、解体も考えていかなければいけないが、全国でも問題となっている廃校舎の解体費用。その額は億単位になるとも言われている。そんな中、カノコは維持管理費はもちろん改修にかかる費用もすべて同社が請け負い、利活用していく。今後発生する多額な解体経費を回避でき、さらに町内法人となることから、法人税などが町の収入になることは逆にプラスとなる。
■旧北星小学校の改修内容は?
カノコが掲げる改修のコンセプトは「旧北星小学校の記憶を大切に、いつまでも皆の交流場でありたい」だ。老朽化した校舎といっても地域の方にとっては思い出の場所。そこを大切にし、さらに交流の場として発展したいということから外観は大きくイメージを変えず、今のデザインをブラッシュアップする形で進める。内部は加工室など製品開発に必要な設備が整えられるが、将来的にはこの場所で自社製品の販売や、自社製品と地産の商品を使用した薬膳カフェも運営したいとしている。令和6年10月の工場稼働を見据え工事着工していく予定だ。
■なぜ当麻町に?
エゾシカということで北海道の拠点を考える中、当麻町の「食育 木育 花育」という自然の資源を活用したまちづくりにひかれたという。順天堂は自然に由来する動植物を原料に漢方製品を作っており、さらにSDGsに積極的に取り組み、地域課題の解決に取り組んでいる。そこにぴったりはまったのが当麻町のまちづくりと、旧北星小学校の利活用というわけだ。
今年7月、中港勝町議会議長、村椿哲朗町長、役場職員が台湾の順天堂本社を訪れ、その工場や農園、概念、歴史などを視察している。この中で順天堂が地域特性を生かした産業の振興、地域経済の振興発展、さらに持続可能な社会の実現に貢献する企業であると確信したところである。
締結式で当麻町に訪れた順天堂社長の莊武璋(チュアン ウーチャン)氏は「この事業の立ち上げには経験の深いスタッフが携わります。本事業が確実に前進すると確信しています」と胸を張った。工場稼働に合わせて当麻町商工会にもぜひ加入したいと話している。当麻町に新たに吹く台湾と日本の連携の風。当麻町にどのような影響をもたらすのか。今後の事業展開が期待される。
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