◆思春期の「見守り」と「励まし」
◇思春期の心象
一般に、青年期の前期は思春期とも呼ばれ、10代から中学生の生物学的な身体面の成熟が始まり、情緒的には「第二反抗期」、「心理的離乳」ともいわれるように、親の保護から心理的に自立しようとする時期でもあります。また、「私はどんな人でありたいか(自己認識・生き方)」「私は将来どんなことをやりたいか(社会適応・将来の夢)」「自分の生きている意味は何か(存在意義・あり方)」といった問題と向き合い、自分(アイデンティティ)というものを確立していくことが課題となります。
しかし、自分自身と向き合う作業は困難を伴うものでもあり、失恋や仲間集団からの疎外、進学や受験のストレス、家庭や学校や職場での葛藤などで、容易に孤独や不安、苦悩といった心理的危機に陥りやすいといえます。思春期の心象は、身体と心の急激な変化で心理的にも不安定で、依存と自立の狭間で揺れ動きやすい状態ともいえます。
教育相談で出逢う思春期の子どもたちの多くは、自分の困難さを誰にも理解されずに、他者からの評価に苦しんでいたり、家族の中での居場所を見失ったりするなど、生きづらさを訴えてきます。生きることに悩むことそのものが、生きることに真摯に向き合っていることであって、その姿(心象)に触れることでこちらが感動させられることも多々ありました。
「頑張らなくてもいいよ、自分らしくで大丈夫」「ダメ出しできる人は成長できる人」「前向きに生きる力はあなたの中にちゃんとあるよ」私もそんな想いを抱きながら「頑張り屋さん」で挫折した子どもたちと接していました。
◇「見守り」と「励まし」
思春期の子どもたちは自分自身の力(自己教育力・自己治癒力)を発揮して、自分自身にとっての本物は何かを探し求めています。
子どもが求めてきたときに、判断の材料になる選択肢を示したり、答えを導き出す方法のヒントを示唆したり、一緒に考えたり、その答えにたどり着けるような場と人とを繋げたり(カウンセラーや専門職者も活用して)することは問題ないですが、基本的には「見守る」ことが大人の役割といえます。自分でぶつかって探し求めた答えがその子にとっての「本物」になっていくので、そのプロセスを大事にしたいものです。
答えを示すのは容易ですが避けた方が良いでしょう。理解ではなく答えを示すような関与をする大人には本当に危機に陥った時にヘルプ(サイン)を出さなくなっていきます。また、「頑張っている」子に「頑張れ」は苦痛しか与えません。本人の努力や想いを十分に理解して「勇気づける」こと「それでいいよ」「間違っていないよ」とその子に合った「励まし」の言葉を大人は探してほしいと思います。
思春期にある子どもは、大人に対して「答え」ではなく「理解」を求めているのです。
◆杉本太平(すぎもとたいへい) プロフィール
宇都宮共和大学子ども生活学部教授。資格は認定心理士、人間関係士。
東京都文京区教育センターの心理相談員や埼玉県下で乳幼児健診・乳幼児発達支援・子育て支援などに従事し、現在大学において保育者養成に務めている。その他、人間関係・HRST研究会会長として関係学理論を背景に独自に開発した地域住民や対人支援の専門職者を対象に心理劇を用いたアクティブラーニング(HRST)の研修会を主催し、子育て支援者の養成を中心に各種の講演活動、子育て・人間関係に関する出版物の発行を行っている。
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