◆いじめ問題への取り組み方
◇子ども集団関係の現代社会の課題
現代の多くの子どもは自然発生的な仲間集団や管理された社会集団にも所属せず、塾や習い事に追われ、狭い限られた生活空間でテレビゲームやパソコンなどの物とのかかわりを主な活動としているといえます。また、コロナ禍でオンライン授業やタブレット導入などで対面的なコミュニケーションを通した集団体験の機会がますます失われてきているように見えます。集団の中で自己実現をはかる力や対人関係能力を育てるうえでも、子どもが学校や地域社会で年齢を超えた豊かな人間関係を経験できる場を整えていくことは大きな課題であると思われます。今の子ども達は集団の中でどのように振る舞い、自己表現し、より良い関係を築いたら良いのかの体験に乏しいが故に、容易にいじめなどの問題が生じやすく自己回復できずに深刻化していく状況にあるといえます。
◇「いじめ」問題への取り組み方
いじめ状況を構成する集団には、いじめられる子(A)、いじめの主体となる集団(B)とその集団内に存在する周辺層(C)、いじめ状況を傍観することでその関係を保持している子ども(D)、いじめ状況に関与できる可能性を秘めた子ども(E)、いじめ集団全体(F)といった集団関係構造が認められます。したがって、いじめ状況の改善のために、その集団関係状況すべてにアプローチするような援助が可能です。また、早期発見と早期対応が求められ、学校と家庭が連携・協力し、子どもを大人が監視するのではなく、共に問題解決を図ろうとする姿勢が援助する側の望ましいあり方といえます。
いじめ問題を解決するために何よりも大切なのは、「子どもに悪い子はひとりも存在しない」という認識です。いじめに対応するときに、いじめられる子の性格傾向を問題にしたり、いじめの行為を否定するに留まらずにいじめてしまう子の人格を否定したりすることは望ましい結果に結びつきません。具体的な援助にはその集団構造に目を向けて、以下のような適切な援助や対応をしていく必要があります。
(A)深く心に傷を負った子どもの心に寄り添い、集団に向き合う自信を回復させるための個別的な援助
(B)特に中心的な役割を担う子どもへ、背景にあるストレスやその子自身の課題を理解し、いじめないで済む方策を共に考える援助
(C)(D)には、子ども同士の交流学習など活発な意見交換が出きるような学習方法の活用やエンカウンターやサイコドラマ(ロールプレイ)などの技法を用いた子ども達の心の交流を促進する集団適応力を育てるような援助
(E)ピア・サポートなどを導入して効果的に「仲裁者」の役割が取れる援助
(F)学校全体の取組みとしての組織的な対応(保護者支援も含む)
◆杉本太平(すぎもとたいへい)プロフィール
宇都宮共和大学子ども生活学部教授。資格は認定心理士、人間関係士。
東京都文京区教育センターの心理相談員や埼玉県下で乳幼児健診・乳幼児発達支援・子育て支援などに従事し、現在大学において保育者養成に務めている。その他、人間関係・HRST研究会会長として関係学理論を背景に独自に開発した地域住民や対人支援の専門職者を対象に心理劇を用いたアクティブラーニング(HRST)の研修会を主催し、子育て支援者の養成を中心に各種の講演活動、子育て・人間関係に関する出版物の発行を行っている。
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