■連載163
仕事について考える
稚内大谷高等学校校長 平岡祥孝
季節は晩秋から初冬へと、足早に過ぎ去っていこうとしています。いつものことながら長い冬が、もうそこまで来ています。寒さに負けないようにしたいものですね。
さて私事ながら、過日、稚内商工会議所・稚内中小企業相談所が主催する令和6年度新入社員研修会の講師を担当させていただきました。入社6ヶ月を経た新人さん向けの振り返り研修です。演題は「自らキャリアを築いていこう‐仕事力を振り返る‐」でした。この研修会で、私が重点をおいてお話させていただいたことの一つは、コミュニケーション能力でした。「コミュニケーションが大事である」とは、散々聞かされたうえに、コミュニケーションスキルを学ぶ機会も多々あったでしょう。ですが、その成果と実態は如何に。
組織とは言うまでもなく、「1人では不可能な目的達成のために、2人以上の人々が協働する仕組み」です。そして、組織が成立する要件としては、3点挙げられるでしょう。1点目、構成員に容認された組織目的を有していること。要するに組織とは目的集団です。2点目、構成員が協働意思を持っていること。協働意思とは、個々の努力によって組織目的に貢献する意思です。3点目、組織目的を人間活動に結びつけていくためのコミュニケーションが必要であること。新人さんにとっては、組織の中における関係性構築が難題か。
ここで、あらためてコミュニケーション能力について考えてみたいと思います。あくまでも私見ながら、コミュニケーション能力は4つの力から構成されているのではないでしょうか。(1)意思伝達力(自分の考えを相手に伝えることができる力)、(2)論理表現力(筋道を立てて説明したり文章にしたりする力)、(3)好感表現力(感じの良さを意識的に表現できる力)、(4)対人調和力(傾聴に基づいて相手の意図や感情を理解し、配慮できる力)です。
失礼ながら、4つの力全てを短期間に伸ばしていくことは、新人さんにとっては至難の技でしょうね。もちろん新人さんそれぞれの資質や潜在能力も異なるでしょう。けれども、素直な心があるならば、日常の仕事を通して焦ることなく意識して身に付けていくことができます。意志あれば道あり。千里の道も一歩から。ローマは一日にして成らず。
何事にも失敗はつきもの。私の独断と偏見によれば、新人さんの特権は、何でも「教えてください」と質問できることと、「申し訳ありません。以後気をつけます」と失敗できることです。人間ですから、ましてや社会人1年生ですから、コミュニケーションで躓くことがあって当然でしょう。でも、同じ失敗を繰り返してはいけませんね。それでは、どうするか。
経験学習サイクル(経験による学び)活用を紹介したいと思います。経験学習サイクルとは、「経験」(まず何事にも取り組み経験する)、「内省」(取り組んでいたときの自分の言動や気持ちを振り返る)、「概念化」(上手くいったか、いかなかったかという自分なりの教訓を得る)、「実践」(自分なりの教訓を実際に試みる)、を回していくことです。コミュニケーションにも経験値が求められます。それゆえ、経験学習サイクルは、コミュニケーション能力を向上させていくことにも役立ちます。
コミュニケーションも所詮、スキルが大半。ならば、意識すれば必ず身に付きます。
▽ひらおか・よしゆき
元札幌大谷大学社会学部教授。英国の酪農経営ならびに牛乳・乳製品の流通や消費を研究分野としている。高校生・大学生の就職支援やインターンシップ事業に携わってきた経験から、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、仕事論、生涯教育などのテーマを中心に、講演やメディアでも活躍。
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