血管性認知症について
美唄市医師会・石本隆広
血管性認知症(VD)は認知機能に関係する脳神経回路網が高血圧などによって損傷された結果、発症する認知症です。
CT/MRI画像では病変の広がりを調べることができ、(1)大脳皮質に多発した大・中の梗塞巣、(2)基底核・前頭葉白質の多発ラクナ、(3)びまん性の皮質下白質病変(ビンスワンガー型とよばれます)、(4)認知機能を営む脳神経回路網の要所に限局した単一梗塞が代表的なものです。これら病変の本態はアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、ラクナ梗塞などですが、(3)は例外になります。つまり、高血圧性の小血管病変を基盤とした白質の広範な不全軟化巣で、これに脳の低灌流(がんりゅう)状態や低酸素状態、凝固・血小板機能の亢進状態のため、通常、高血圧に罹患(りかん)していた高齢者では、過降圧、心房細動や心不全、呼吸不全、高度の動脈硬化症が加わって発症します。
認知症の発症の仕方は急速、時に階段状・動揺性で、脳卒中発作後にもみられます。この点でアルツハイマー型認知症などの変性疾患の発症とは明らかに異なりますが、(2)(3)のなかには潜行性に進行するものもあります。
一般に、VDの背景には、血管性危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動など)や重要臓器の循環障害(心筋虚血、下肢虚血など)の存在し、認知症以外の中枢神経症状を合併し、高齢者に好発し個人差が大きいことが知られています。特に、(2)(3)では認知症とともに錐体路(すいたいろ)障害(片麻痺(まひ))、錐体外路障害(パーキンソニズム)やこれらによる歩行障害、仮性球麻痺(嚥下(えんげ)障害、構音障害)、神経因性膀胱(ぼうこう)(切迫性尿失禁)がさまざまな組み合わせで発症し、長期的にはADLも低下していきます。また、高齢者の脳ではアルツハイマー病理が潜行していることもよく認められ、循環障害の悪化を契機として認知症が発症(混合型認知症)することも少なくありません。
(執筆者紹介/心療内科あおぞらクリニック院長)
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