■ジャパンタイムズ「2024年 Restaurant of the Year」に選出されて
ELEZO社の社長 佐々木章太さんにインタビューしました
◇佐々木章太(ささき・しょうた)
1981年、帯広市生まれ。家業を継ぐために飲食業界へ転身。東京などの有名フランス店で修業を積んだのち、23歳の時に十勝へ帰郷。24歳でELEZOを立ち上げ、27歳に豊頃町大津で法人化「株式会社ELEZO社」。2022年にはオーベルジュ「エレゾ・エスプリ」をオープンする。
Q:「オブ・ザイヤー」に選出されたお気持ちをお聞かせください。
A:光栄につきる。昨今、都市部ではトリュフやキャビアといったスター食材や料理が今もてはやされている中で、自分たちはそこの選択肢を思い切り排除して、同等の価格を設定している。ビジュアルにおいても表層に映るものはシンプルを極めた。言うまでもなく、その裏にはものすごい手間をかけている。大切なことは、料理の手前にあるその背景を伝えることであり、その信念を料理に吹き込むことだと感じている。どちらかというとそれは目立たない。だけど、それは自分たちにとってかけがえのないもので、この地でやっている意味でもあり、これからの時代でそれぞれの地域が求められるものだと信じている。そのスタンスを理解してもらった上でこういう賞をいただくということが大変意義深く、我々だけでなく様々な地域の生産者、料理人にとっても励みになる。その土地を照らす料理、そこに関係のないものは排除するという決断を含めて、世界中のいろいろな所を食べ歩いているような審査員の方々が見抜いて評価してくれたことは、ただ賞をいただいて嬉しいというような表層的な嬉しさではなく、本当に意義深い嬉しさがある。
Q:選出されるにあたりどのような気持ちで臨みましたか?
A:自分はあまり緊張しないタイプなので、唯一言えば、町民の皆様が誇らしく思って、未来を描けるような気持ちになってもらえたら嬉しいなと思った。日頃町から、いろいろなフィールドにおいてお世話になっていて、その部分が自分たちのやる気にも繋がっているので、少しでもお返しできたらと思っていた。
Q:料理を作る又は振舞う上で大切にしていることやこだわりはありますか?
A:自分たちの仕事は料理を通して背景を投影するもの、食を通じて土地や産業に従事する方々の思いや尊い研鑽といった背景を投影する食を完成させたいという思いがある。料理やシェフだけが注目されるのでなく、その後ろにいる方々の労力や日々の研鑽があって成り立つもの。食は自然から始まって命、食材、製品、料理、消費者にバトンリレーとして繋いで自然や環境、地域に対して還元されて初めて価値が生まれると思ってる。ただエレゾが評価されて終わりでは、自分たちは物足りないし、満足できない。その後ろにいる人たちがちゃんと感謝されたり、消費行動がもっと成熟することに寄与したい。一過性の流行り廃りではなく、地域の食堂や生産者を買い支え通い支える。そして料理人も生産者を買い支えることで、強靭な食文化とか食環境が構築されると思っている。今年もてはやされたから次の年もと思って生産しても、来年には誰からも注文してもらえないという、心無い消費行動というのが最近ものすごく多いように感じていて、それだと強い食文化が生まれない。心ある継続性、持続性、育て合いが成熟して食文化に繋がってくると思っている。本当に必要で大切な部分は耳障りがあまりよくないが、そういった理想や気概を大切にしている。
Q:食文化を伝えていく上で大切にしていることはありますか?
A:文化は横移動ではなく縦積みであると。だから周辺環境であれば支える力というのが本当に不可欠だと思っていて、そういった継続性が文化に繋がる。もっといえば文化は習慣の先にあるようなものである。その習慣の中で良くも悪くも慣れないことが地域にとっては必要なこと。既存産業でいえば、豊頃では、美味しい牛乳や牛肉を作っているし、何より大津の魚とか、我々の家畜やジビエとか、食材のカテゴリーを満たす優良食材がたくさん生まれていると思うが、地元からの関心が薄かったり、慣れ過ぎて感謝されなくなってしまうと、やはり食文化は円熟していかない。
新産業創出の観点で言えば、例えばチーズでも牛乳がないとその産業は繋がっていかない。元が潰れちゃうと、その後の産業が発展しない、共倒れになってしまう。何事も新たな事を始めてから5年間は結果が出ないといわれている。その間は全部生産者だけの投資。そういうところに町などがサポートできれば、新しい産業が生まれ町や地元の魅力や財産になる。そういうところを手厚くしながら、2次加工、3次加工と発展させる事業者が増え、付加価値や活気ある産業創出に繋がれば住んでる人も誇らしく思える。豊頃に世界から認められるチーズ工房があるとか、誰が食べても唸るような美味しい鮭があるとか、それをちゃんと調理するスペースがあったり、提供するシェフや美味しい料理が存在する。そこら辺には有名シェフや著名人がいたり。それが豊頃町だったら絶対誇らしい。そういうところに結果的に行ければいいかなと考えている。その根っこはやっぱり支えることだと思う。金銭的なサポートだけじゃなくて、関心を持つとか評価してあげるとか感謝を持つとか、そういうことも支えるということ。それが最終的に他も羨む豊頃の文化に繋がっていくと信じている。
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