■動物化石博物館情報
~小さな小さなペンギン化石~
博物館の常設展示室には、ペンギンみたいな「ホッカイドルニス」が展示されています。この化石は、網走市で2500万年前の地層から発見されたもので、実物の化石も博物館の収蔵庫に保管されています。体長130cm、首を伸ばすと170cmと、とても大きな鳥です。このホッカイドルニスが生きていた時代の少し後、2400万年前のニュージーランドには、とても小さいペンギンが暮らしていました。
今回「パクディプテス ハカタラメア」と名付けられたこの小さなペンギンは、足寄動物化石博物館、岡山理科大学、そしてニュージーランドのオタゴ大学の共同研究でその正体が明らかになりました。「パクディプテス ハカタラメア」とは「ハカタラメアの小さな潜水者」という意味です。ちなみにホッカイドルニスの学名は「ホッカイドルニス アバシリエンシス」で「網走に住んでいた北海道の鳥」という、なかなか由緒正しい?名前です。
このニュージーランドの化石ペンギンは、ペンギンとしては最も小さいものの一つで、現在のフェアリーペンギンと同じくらいの大きさでした。保存されていた翼の骨である上腕骨の長さはおよそ4・5cmしかありません。推定された体長はおよそ30cm、体重は1kgほどです。ホッカイドルニスの翼の骨と比べると、その小ささが分かると思います。このペンギンは、このサイズのペンギンとしては最も古い時代のペンギンです。ホッカイドルニスはベヘモトプスやアショロカズハヒゲクジラと同じ時代の動物なので、海だった足寄で「足寄の動物たち」が暮らしていたころのニュージーランドには、こんなに小さなペンギンが暮らしていたことになります。
このペンギンの面白いところは、翼の骨の形です。翼の肩の部分は現在のペンギンととてもよく似ているのに、ヒジの部分はもっと古い時代のペンギンとそっくりだったのです。ペンギンは他の鳥とは違って、翼を折りたたむことなく1枚の板のように使って推進力を手に入れるので、肩の部分の動きはとても重要です。肩の部分が今のペンギンと似ているということは、翼の動かし方が現在のペンギンと似ていたということです。ただし、ヒジの部分は違っているので、もし泳ぎを比べるとすると、現在のペンギンよりはほんの少し泳ぎが上手じゃなかったかもしれません。
今回の研究では、骨の内部構造もCTスキャンを使って調べました。博物館の束柱類の展示で紹介していますが、骨の内部構造はその生き物がどこで暮らしたか、どれくらい泳いだり潜ったりしたかを教えてくれます。このニュージーランドの小さなペンギンは、現在のフェアリーペンギンと同じように、浅い海で暮らしていたようです。
ホッカイドルニスもそうですが「ペンギンのように翼で泳ぐ鳥」には人間と同じくらい大きなものもいました。南半球のペンギンにもいましたし、北半球のホッカイドルニスの仲間にもいました。ペンギンのような鳥はどこまで大きくなれるのか?というのはとても面白いテーマですが、では逆に、どこまで小さくなれるのでしょうか?
今回の発見で確かめられたことの一つは、ペンギンのような鳥の最小サイズは、体重1kg程度だろう、ということです。海に潜る動物は、水で体温が奪われるので大きい方が有利なのですが、ペンギンの場合、その羽毛による優れた断熱効果をもってしても、体重1kg程度が限界だと考えられています。実際に、フェアリーペンギンはペンギンの中では比較的温暖な地域に生息しています。化石で何種類か発見されている最小サイズのペンギンが、どれも体重1kg程度ということは、ペンギンはこれ以上小さくなれないのではないか?ということです。
このように、古生物学者は、化石の骨の形だけでなく、内部の構造や、現在生きている動物との比較などから、その動物がどんな暮らしをしているかを解き明かそうとしています。足寄の化石たちである、アショロアなどの束柱類、原始的なクジラたち、十勝や道東から集まってきたさまざまな化石の研究は進んでおり、これからも研究成果を皆さんにお伝えしていきたいと思います。
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