芝山町教育委員会では令和元年度から、しばやま郷土史研究会(以下「郷土史研究会」といいます)と共同で移転地区に残る石造物などの調査を実施してきました。また令和3年度には移転地区の景観や祭事、年中行事の記録のため、一般財団法人地域創造の助成を受け、映像記録「ムラの暮らし〜成田空港第三滑走路用地移転地区〜」を作成しました(芝山町公式YouTubeチャンネルで視聴可能)。しかしコロナ禍で祭事の中止などもあったため、令和5年度に再度撮影を実施しました。
このような取組を行ってきましたが、その一方で、各家で保存されている古文書や民具などの資料、寺社や古い民家などの歴史的な建築物、集会所で保管されている区有文書など、調査・保全が進んでいないものも多くありました。教育委員会としてもこれらについて対策が必要だと考えておりましたが、専門的な知識やネットワークもなくなかなか進めることができませんでした。
そのような中、当町出身の長野大学教授・相川陽一氏(日本近現代史専攻)から調査・保全の協力の申し出をいただきました。相川氏は現在長野県在住で、生まれ故郷の状況は知っていてもコロナ禍のため芝山町に戻ってくることができなかったそうです。コロナ禍が明け令和5年の秋頃に帰省したところ、すでに移転が進み、地域が大きく変わっている現状を知り、千葉大学や国立歴史民俗博物館などの研究者と令和6年5月26日に「北総地域資料・文化財保全ネットワーク」(以下「北総ネット」といいます)を立ち上げました。
北総ネットでは、次の5点を調査することにしました。
(1)家や土蔵などにある古文書や近現代の資料の保全
(2)集会場や公民館などにある地域資料(区有文書)の保全
(3)歴史的な建造物(屋敷、土蔵、納屋、寺社など)の図面作成
(4)石造物・石碑などの現状記録
(5)歴史的な景観の記録保存
また北総ネットのメンバーは町内の土地勘のない人が多いため、教育委員会と郷土史研究会が地域との橋渡し役となり、区長との調整や調査する建造物の選定をしました。7月には北総ネットメンバーが実際に地域へ入り、区長への挨拶や調査の下見を行いました。
調査は9月2日〜6日に実施しました。研究者や学生など延べ80人が各班に分かれ調査を実施しました。
建築班では、中郷地区にある郷土史研究会副会長の自宅を調査しました。この建物は副会長の曽祖父の代に建てられたもので、B滑走路建設に伴い現在地へ集団移転した際に移築したものです。建物の計測や副会長への聞き取りを行って図面を作成しました。
石造物班は、町史編さん時に調査範囲外となったもの、調査から漏れたもの14点の記録を行いました。
古文書班は、集会所に残る資料を調査しました。目録を作成し、資料の「見える化」を行いました。
相川氏は「目録を作成することで資料のルーツが分かるようになり、住民が子や孫へ自身のルーツを話せるようになります。このように、郷土を愛する気持ちを持つきっかけとして資料が重要だと考えています。自分たちは研究者の立場でできることを尽くしたい」と話してくれました。
今回実施した調査は、住民の皆さんの協力もあり予定通り進めることができました。しかし滑走路建設は待ったなしに進んでいきます。教育委員会はこれからも北総ネットや郷土史研究会と協力し調査を進めていきます。
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