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長南町認知症サポート医〔上野秀樹先生〕の認知症見立て塾【第39回】

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千葉県長南町

9月号で希望の大切さについてお話ししました。今月号では、もの忘れ外来での「希望」を考えてみましょう。さまざまな理由で、たくさんの人がもの忘れ外来を受診されます。私は精神科の出身なので、最も多いのは精神症状に関する受診です。私たちはこの社会で生活していく中で、もともとの人格傾向、周囲の環境の影響、身体的な疾患、内服中の薬物の影響などのために、さまざまな精神症状が出てきてしまうことがあります。特にもの忘れ外来で多いのは、抑うつ状態や幻覚、妄想などの精神症状になります。高齢者ではうつ病が多く、うつ病自体が認知症の原因にもなります。将来、身体的な機能が低下して要介護状態になるとか、もの忘れがひどくなって生活がままならなくなるなどと予定している人はいないので、多くのケースでこれまで思い描いていた自分の将来の姿と現実の自分の状態のギャップを受け入れることができず、抑うつ状態となることが多いのです。こうしたケースでは、環境の調整や考え方を変えたり、さらに必要があれば精神科薬物療法をすることで改善が期待できます。こうした「改善の可能性」を知ることがとても重要になるのです。
幻覚やもの盗られ妄想などの被害妄想も、もの忘れ外来で扱うことが多い精神症状です。周囲からすれば、あり得ないような内容の訴えが多いのですが、ご本人にとってはまさしく真実以外の何物でもなく、とてもつらい症状のひとつです。こうした精神症状で周囲の人が振り回されてしまうことも多々あります。特にもの盗られ妄想は、周囲の環境による影響が大きい症状のひとつです。ご本人がどうしてそうした訴えをするようになったのかを深く理解することで、改善することもあります。また、幻覚や妄想は内服中の薬の影響であったり、身体的な病気の症状として認められることもあり、適切な医学的な介入で改善することがたくさんあります。幻覚や妄想を改善する精神科薬もありますが、副作用が強く出てしまうことが多いため、これは最後の手段です。若い方であれば、たとえ幻覚や妄想を改善する薬の副作用が出たとしても、減量・中止でほぼ改善することが多いのですが、高齢者では副作用が不可逆的になってしまうこともあり、注意が必要なのです。
また、もの忘れ外来なので、中心となるのはもの忘れや認知機能障害の訴えです。こちらもさまざまな評価方法があるので、適切に評価し、改善の可能性を見つけ出していきます。残念ながら、もの忘れや認知機能障害のうち、脳の神経細胞が減少してしまったために出ている症状は、現在の医学では改善が困難です。しかし、もの忘れなどの認知機能障害が抑うつ状態、内服中の薬物の影響、身体疾患のために出現していることもあります。こうしたケースでは、抑うつ状態の改善、内服中の薬物療法の調整、身体疾患の治療で改善が期待できます。こうした改善できる部分を見つけ出すことがとても重要です。また、たとえ高齢になったとしても、人間は運動すれば身体機能が改善するし、適切なリハビリで脳機能の改善も期待できることがあります。こうした改善の可能性をお話しすることも「希望」を持つことにつながります。
もの忘れ外来では、いらした方の状態を評価して、ご本人、ご家族、周囲の人にこうした評価の結果や適切な介入方法を説明することで、同じ方向を向いて状態の改善を目指していきます。

◆上野先生を講師に迎えた「認知症学習会」を毎月開催しています。ぜひご参加ください。
日時:10月16日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター

問い合わせ(申込先):福祉課 包括支援センター
【電話】46-2116

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