今月号は認知症に関する考え方をお話ししましょう。
年齢階級別推定認知症有病率
厚生労働科学研究費補助金(認知症対策総合研究事業)
総合研究報告書「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」
これはある年齢層の人にどのくらい認知症の人がいるかを示した図です。高齢になると認知症の人の割合が加速度的に増えていくことがわかります。認知症は決して人ごとではないのです。そして認知症の原因はひとつではなく、必ず複数の原因が重なり合っています。それを探し出すのは医療の役割になります。
たとえば、頭部CT上で、海馬の萎縮が認められ、経過もあわせてアルツハイマー型認知症と診断された人がいるとします。
2年前に軽い脳梗塞を生じたのですが、幸いにして大きな後遺症なく回復したものの、以前よりも閉じこもることが多くなりました。数ヶ月前から、夕方から夜間にかけて、イライラしたり、幻覚を訴えたりすることが増え、もともと内服していた睡眠導入剤、胃腸薬のためにせん妄状態を生じていたことがわかりました。このケースの認知症の原因を図示してみましょう。
このうち、アルツハイマー型認知症と脳梗塞に関しては、すでに脳の神経細胞が減少してしまっているので、現在の医学では回復することは出来ません。改善できる可能性があるのは、うつ状態とせん妄状態になります。
せん妄状態については、原因となっていた薬を漸減し、他の薬に切り替えることで、ほぼ改善することが出来ました。うつ状態についても環境の調整や周囲からの適切な働きかけによって、かなり改善することが出来ました。
この人の現在の認知症の原因を図示してみましょう。
脳梗塞とアルツハイマー型認知症はそのままですが、うつ状態とせん妄状態を大きく改善することが出来たので、結果として認知症は大きく改善しました。認知症の改善に伴い、生活の質も大きく改善することが出来たのです。
このようにたとえ認知機能障害があったとしても、改善できる可能性を探し出し、適切な対応をすることで、その生活の質を大きく改善することが出来ます。医療サービスと介護サービスを適切に組み合わせて、上手に利用することが重要になります。
ここで先月号でご紹介したケースを考えてみましょう。もともとごく軽度の認知機能低下があった方に、塾をやめたことなどによる環境の変化でうつ状態が合併したために、認知症が顕在化したのでした。その後の適切な働きかけ、リハビリによってうつ状態が改善して認知症の状態が大きく改善したものと考えることが出来ます。
■上野先生から認知症について学ぶ学習会を開催します。
ぜひご参加ください。
日時:5月15日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター
問い合わせ(申込先):福祉課 包括支援センター
【電話】46-2116
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