先日、私が開設した関原にある古民家クリニック長南にて、認知症に関する研修会を行いました。5月の連休中にもかかわらず、茂原市の地域包括支援センター、中核地域生活支援センターから20人以上のスタッフの参加がありました。コロナ禍の中で研修会もオンラインで行うことが多くなりましたが、実際に1カ所に集まって、顔をつきあわせて開催するのには大きな意義がありました。オンラインでは伝えることが難しい思いやエネルギーが、リアルな人と人との間では伝わります。
研修会では、私の方から精神症状がある認知症のケースを提示し、ケースに関連したアセスメントと対応を説明しました。認知症の人、もの忘れや周囲の状況がわからなくなる見当識障害、理解力・判断力の低下などの認知機能障害だけではなく、精神症状が合併することが珍しくありません。もの忘れなどの認知機能障害だけであれば、周囲の人も本人が何に困っているのかを想像することがそれほど難しくないことも多く、適切な支援を提供できる可能性が高くなります。しかし、うつ状態や幻覚・妄想、興奮状態などの精神症状が合併してしまうと、とたんに支援は難しくなってしまいます。周囲の人が本人の困りごとを理解するのが難しくなるのと、医学的な対応が必要になることが多いからです。逆に周囲の人が精神症状やその医学的な評価、対応方法を深く理解していればいるほど、本人の精神症状が改善する可能性は高くなります。
精神症状に対する医学的な対応に関しては、精神科薬物療法の理解が欠かせません。薬に関しては、その効能・効果だけではなく、副作用の理解がとても重要になります。とくに認知症の人は自分で副作用が出ていることがわからないことが多いので、周囲の人が気にかけてあげる必要があります。また、同じような効能・効果をうたう薬でも、実際の効果や副作用は利用した人によって異なるので、内服した後の適切な調整が重要になります。精神科薬物療法の調整では、適切な情報が必要不可欠です。まず、対面診察をして本人の訴えをじっくり聞きます。そして、身体疾患のために精神症状を生じてしまう「症状精神病」を除外するために身体的な診察をします。さらに重要なのは、本人の生活状況に関する客観的な情報になります。私も医師として診察室で診察をしますが、とくに精神症状を評価する上では、残念ながら診察室での診察はあまり役に立ちません。みなさん、医師の前ではしっかりした姿を見せることが多く、また目の前で演技をされたら見破るのは困難だからです。
精神科薬物療法の効果的な調整のためには、ご家族や周囲の人からの客観的な情報がとても重要なのです。精神症状や薬物療法に関して、医学的な理解があればあるほど、本人の日常生活の様子から必要な情報を選び出して医師に伝えることができるようになるので、薬物療法の効果が上がりやすくなるというわけです。
これからも認知症に関して理解を深めることができる研修会を提供していきたいと考えています。
■上野先生から認知症について学ぶ学習会を開催します。
ぜひご参加ください。
日時:6月19日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター
問い合わせ(申込先):福祉課包括支援センター
【電話】46-2116
<この記事についてアンケートにご協力ください。>