今月は私がもの忘れ外来で特に注意しているポイントをお話ししましょう。
一つ目はアルコールです。過去の飲酒歴が、高齢になってからの精神症状や認知機能障害に影響しているケースがたくさんあります。
[ケース紹介]
70歳男性の方です。大学卒業後、商社に定年まで勤務していました。仕事上、酒席でのお客さんの接待も多く、毎晩のように飲酒していました。一晩でかなりの量を飲酒することもあったようです。
定年後、65歳で心筋梗塞のために入院。医師からのアドバイスもあり、これを機に断酒したそうです。
2年ほど前から、もの忘れが認められるようになりました。1年ほど前からは、怒りっぽくなったり、ささいなことで激高し、家族が困惑することが増えてきました。進行するもの忘れと精神症状の治療を求めて、もの忘れ外来を受診しました。
このケースでは、受診時には飲酒の習慣はありません。しかし、若い頃には毎晩のように飲酒しており、時にかなりの量を飲むこともあったようです。現在は飲酒の習慣がなくなっていても、このように過去に長期多量の飲酒歴があると、易怒性や易刺激性の亢進などの精神症状が出てくることがあります。アルコールの影響で、前頭葉の機能低下を生じることがあり、このために自分の感情や行動をコントロールする能力が低下してしまうと考えられています。こうしたケースでは、対症療法的に精神科薬物療法が必要になることがあります。もの忘れなどの認知機能障害に関しても、過去の長期大量の飲酒歴が影響している可能性も否定できません。
アルコールは古くから人類と共にある薬物で、コミュニケーションを円滑にしたり、ストレス解消に役立ったりと、よい面もたくさんあります。それでは、どのような飲酒がいいのでしょうか?
健康上、問題になりにくい飲酒として、『節度ある適度な飲酒』の考え方が参考になります。これは2000年から始まった国民健康づくり運動『健康日本21』で紹介された『アルコール依存症になりにくい飲酒方法』です。以下、ご紹介しましょう。
通常のアルコール代謝能力を有する日本人(お酒に強い人)では、「節度ある適度な飲酒」は1日平均純アルコールで約20g程度(日本酒換算1合程度)
(1)女性は男性よりも少ない量が適当である
(2)少量の飲酒で顔面紅潮を来す等アルコール代謝能力の低い者(お酒に弱い人)では、より少ない量が適当である
(3)65歳以上の高齢者においては、より少量の飲酒が適当である
(4)アルコール依存症者においては、適切な支援のもとに完全断酒が必要である
(5)飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない
純アルコール約20gとは、日本酒で1合、ビールで500mlと比較的少なめの飲酒量です。人によっては、この量でも問題が生じることには注意が必要です。何事も『過ぎたるは及ばざるがごとし』ということですね。
■上野先生を講師に迎えた「認知症学習会」を毎月開催しています。ぜひご参加ください。
日時:8月21日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター
問い合わせ(申込先):福祉課 包括支援センター
【電話】46-2116
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