紀伊山地は、年間を通じて雨量が多く、参詣道の傷みが多く見られます。総面積約500ヘクタール、参詣道の総延長約350キロメートルの広大な資産を次世代に引き継いでいくためには、継続性のある保全活動を行うとともに、保全や活用の担い手となる次世代の人材を育成していくことが重要です。
■10万人の参詣道環境保全活動
県では、世界遺産の保全と活用を図るため、企業や団体、来訪者等に参詣道の維持・修復活動にボランティアとして協力いただく「道普請(みちぶしん)」を実施しています。
世界遺産の保全に直接携わる貴重な体験が好評を得て、これまで延べ3万8千人以上の方が参加しています。
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▽世界遺産の保全に携わる
KDDI株式会社 関西総支社 管理部 富岡 俊和さん
当社は、「つなぐ」ことを使命と考え「命をつなぐ」取組の一つとして、地域の特性に応じた環境保全活動を全国で実施しています。和歌山県では2016年から熊野古道の道普請に参加し、今回で9回目の実施となります。
道普請の魅力は、専門家でない私たちでも世界遺産の保全に直接関われることです。自分たちで土を運び、踏みならして保全した道が世界遺産の一部になると思うと誇らしくなります。さらに、作業中に古道を歩く方々から「ありがとう」と笑顔で声をかけられ、大変うれしい気持ちになります。
こうした貴重な体験ができる道普請に今後も継続して参加していきたいと考えています。
■次世代の担い手を育成
世界遺産を保存・継承していくため、県内の小・中学校生や高校生を対象に、世界遺産についてわかりやすく学習できる各種講座と、現地での参詣道ウォークや清掃活動、道普請を世界遺産マスターと行う「次世代育成事業」を実施しています。これまで1万2千人のこども達が参加し、地域への愛着を深めています。
▽世界遺産マスター
世界遺産の保全と適切な活用を推進するための民間リーダー
▽世界遺産を次世代に伝える
石坂 容子さん(世界遺産マスター)
「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されて、初めて世界遺産を身近に感じ、どのように維持・管理されているのか知りたくて世界遺産マスターになりました。こども達には、地元にある世界遺産を家族や友達に伝えて、一緒に熊野古道を歩いて体験して欲しいこと、世界遺産を守り伝えるために道普請などの活動があることを、年齢に合わせてわかりやすく話をするように工夫しています。古道を歩いたこども達の感想には、「今度は、家族と歩いてみます」など、私が話したことを受けとめてくれたことを知り、とてもうれしく思いました。これからも、世界遺産を貴重な財産として守り、次の世代に伝えることを続けたいと思っています。
■「紀州語り部」を育成
「紀州語り部」は、県内各地域の歴史・文化・自然などを来訪者に伝え、安全で楽しい旅のお手伝いをする案内人です。世界遺産地域においても、各地域の資産が持つ魅力を伝える多くの「紀州語り部」が活躍しています。
県では、おもてなし力の向上を促す研修会や相互連携を図る連絡会議を開催し、「紀州語り部」の育成に取り組んでいます。
■和歌山県世界遺産センター
世界遺産を次世代に継承していくため、また、来訪者が「高野・熊野」や参詣道など実際の世界遺産地域への関心を高めるために設置された啓発・学習拠点です。各資産の価値や魅力などをパネル等で紹介するとともに、世界遺産セミナーや学校・団体向けの講座、道普請等の保全活動など、世界遺産保全への意識づくりや活動の推進に取り組んでいます。
問い合わせ:和歌山県世界遺産センター
〒647-1731 田辺市本宮町本宮100-1
時間:9時~17時
【電話】0735-42-1044【FAX】0735-42-1560
■世界遺産の魅力を伝える
森下 稔さん(高野山町石道語り部の会 会長)
「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録される際に語り部の担い手が必要と聞き、町石道周辺の歴史や草花など自然の素晴らしさを伝えていきたいと思い、語り部になりました。
年間で約20回お客様を案内していますが、その際は、事故やケガのないように、道に迷わないように特に気を付けています。また、できるだけわかりやすい言葉で、年齢や趣味に合わせた案内を心がけています。お客様から楽しかったと感想をもらったり、以前案内したことを覚えていてくれたりするとうれしい気持ちになります。
今後は、次世代の語り部の育成や、町石道だけでなく他の高野参詣道の魅力を多くの方に伝えていくことに力を入れて取り組んでいきたいと考えています。
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