■地域のブランドや魅力を後世につなぐ誇り高き紀の川人
▽あら川の桃振興協議会わか桃会
部会長 上畑雅敬さん(35)
令和5年7月、桃の登録としては、全国で初めてとなる地理的表示(GI)保護制度に「あら川の桃」が登録されました。この制度は、生産地域と結びついた特色のある産品の名称を知的財産として、その生産地、品質などの基準とともに、国が登録・保護する制度です。
そんな300年以上も前から続くあら川の桃を10年後も20年後も愛される存在にするため、あら川の桃振興協議会の専門部会「わか桃会」が令和2年3月から活動しています。45歳未満または就農10年未満の若手農家で構成されるわか桃会。桃のある風景をテーマにしたフォトコンテストやベテラン農家を講師に迎えた若手農家向けの勉強会など、ブランド認知度向上や技術向上に向けた取り組みを進めています。
5年前に東京都から紀の川市に戻り、祖父の桃農家を引き継いだ上畑雅敬さんは、令和6年からわか桃会の部会長を務めています。「若手農家同士が交流を深め、課題を共有することで、地域全体の課題を解決することもある」と話す上畑さん。同じ地域で同じ仕事をする中で出てくる課題だからこそ、共感し、協力し合えています。
また、時代の流れに合わせたブランディングを行うためには、若手農家の発想が必要で、わか桃会の活動は大きな役割を担っています。上畑さんは「私が50歳になったころには時代は変わっています。新しい取り組みを進めていくためにも、わか桃会の活動はずっと引き継いでいってもらいたいです」と期待を込めて話します。活動があら川の桃にとってプラスになるよう、日々試行錯誤を繰り返すわか桃会。「活動内容に賛否もあると思いますが、続けていくことで地域が少しずつでも変わればいい」と上畑さんは話します。
わか桃会のメンバーの共通認識にある〝今まで地域の人が作り上げてきてくれたブランドに誇りをもって守っていく〟この思いが市全体に広がっていくことが、消滅可能性自治体から脱却するひとつのキーワードになるかもしれません。
「このブランド(地域)を次の世代にもつなげていきたい」と語る上畑さんの言葉は、地域への深い愛情と、未来への強い意志を感じさせます。
▽紀の川天空和牛生産農家
西岡畜産 西岡将彦さん(44)
中山牧場 中山郷史さん(43)
西口畜産 西口寿一さん(39)
天空の村と呼ばれる場所が本市にあるのを知っていますか。平野地区の標高600mを超える人里離れた奥地にその場所はあります。
この場所で子牛を購入し、肉牛に育てる役割を担う肥育農家として、熊野牛を畜産している西口寿一さんと西岡将彦さん。2人とも両親から畜産を引き継ぎ、互いに情報共有しながら牛を育てています。「空気がよく、湧き水の流れる自然豊かな場所でのびのびと育てられた牛はストレスが少なく、肉質もいいものになる」と西口さんは飼育環境の良さを話します。
味が熟成され、脂身もしつこくない最高級の熊野牛、天空和牛を育てるためには、30か月以上の長期肥育が必要で、一般的な和牛の肥育に比べ、病気などのリスクも高くなります。「一番気を使うのは牛の健康状態です。そのため、1日に何度も見回りをし、状態をチェックしています」と西岡さんは、牛舎に何度も足を運び愛情を注ぎます。
子牛を買う際のポイントを聞いてみると「血統だけでなく、必ず確認するのは、子牛を育てた繁殖農家さんの人柄です」と2人は口を揃えます。そんな2人が信頼をおくのが、名手下地区にある中山牧場の繁殖農家、中山郷史さん。
繁殖農家は、母牛を飼育して子牛を産ませ、子牛を生後8~10か月まで育てた後、肥育農家に引き継ぐ役割を担います。「元気で健康な子牛を産んでもらえるように母牛にたくさん愛情を込めます」と話す中山さんは、取材中も牛舎にいる母牛に気を配ります。昨年行われた、県内の繁殖農家が飼養管理技術を競い合う、繁殖用雌牛の品評会「種牛共進会」で最優秀賞を獲得した中山さん。西口さんや西岡さんも中山さんが育てた子牛を肥育しています。
「この地で生まれた子牛をこの地で育てられる。そんな場所は全国的にも少ない。このまちで最高の天空和牛を育てたい」と西口さんの言葉からは、愛情だけでなく、このまちで畜産を行う農家としてのプライドが伺えます。
役割は違えど、最上級の愛情とプライドをもって育てられた最高級の熊野牛にだけ与えられる称号、それが「紀の川天空和牛」です。
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