「紀伊山地の霊場と参詣道」世界遺産登録20周年記念連載
■第6回「番外編・那智の火祭りとは…?」
那智勝浦町民の私たちにとって、熊野那智大社や那智の滝は最も身近な世界遺産といえます。そんな世界遺産を舞台に、来月の7月14日には『那智の火祭り』がおこなわれます。
そこで、今回は番外編として『那智の火祭り』についてお話します。
現在、那智の火祭りは「那智の扇祭り」という名称で国の重要無形文化財に指定されており、その祭事のなかで「那智の田楽」が奉納されます。「那智の田楽」は世界遺産ではなく、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。世界遺産とは異なる枠組みによって保護されているということになりますが、これは世界遺産の対象が有形の文化財で不動産のものに限定されているからです。しかし、それでは世界各地の伝統的な民俗芸能や技術が失われてしまうということで、無形文化遺産の制度が成立しました。
では、大きな松明を掲げた白装束の男たちが参道を駆け上がる姿が印象的な「那智の扇祭り」ですが、この神事はどのような意味を持つのでしょうか。簡単に言ってしまえば、これは神様の里帰りの神事です。本来、那智の滝付近で祀られていた熊野の神々を扇神輿に移し、那智大社から那智の滝へと帰ってもらうことで、神々の神威を新たにすることが目的となっています。神様に実家に帰ってもらって、英気を養ってもらうというイメージですね。また、扇神輿は滝、松明は炎を意味し、水と火の神事ともいえます。
そして、12基ある扇神輿は、32枚の日の丸が描かれた扇で飾られ、太陽を意味する8枚の鏡がつけられています。12基は熊野十二所権現の依代※ともなりますが、1年の各月を表しており、それぞれが365本の竹の釘で作られているそうです。神事やお祭りのときには、人の動きに注目されがちなのですが、こういった神事で用いる祭具や道具、装束などにも注目してみるのもおもしろいかもしれませんね。
さて、今回は番外編として『那智の火祭り』について紹介しました。水や太陽をイメージするこの神事は、熊野信仰がもつ自然崇拝の性格をよく表しています。次号では熊野信仰の霊場である「熊野三山」についてお話します。
また、今月の15日(土)~7月21日(日)まで、和歌山県立博物館で世界遺産登録20周年を記念した企画展「那智山・那智瀧の神仏」が開催されます。遠方での開催となりますが、ぜひ足をお運びいただければと思います。
※依代(よりしろ)…神様等がよりつくもの
文・前田愛佳(学芸員)
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